第5話 恐雷説
思超堂 地下の間
ここの広さは民家二十個分、元々戦闘用の部屋ではないが、戦闘には適切な空間だ。
「決闘とは言っても、相手を殺すのはナシ。相手の腕などを欠損させることも同様だ」
李光と司馬章は一定の距離を取る。
「いいか、倒れて10秒以内に立ち上がれなければ敗北となる」
「勿論だ!!」
孫操備が安全な場所で見守る。
「始めろ、操備」
「あぁ」
孫操備は頷くと、号令を言い放った。
「決闘……初めェ!」
号令と同時に司馬章が飛びかかる。
「いくぞッ!"炎殴"!」
炎を帯びた司馬章の拳は、李光の拳に弾かれてしまった。
(…雷?)
彼の手には雷がパチパチと音を立てていた。
「俺の思超は【恐雷説】。人々が雷を恐れる理由を追い求めた俺が得た、雷を操る思超だ」
李光の思超…【恐雷説】は、司質式の思超で、雷を纏い、放つことができる。また、使用者も思超の影響で常人以上の速度で動くことができるのだ。彼はそれを活かして、常に先手を取ることができる。
「今度は俺から行こう」
李光は攻撃を始めた。常人離れした速度で放つ攻撃が、司馬章を襲う。
「速い!動きが掴めない…」
あまりの速さにカウンターすら出来ず、司馬章は防戦を強いられた。
「どうした!この手応え…天理に復讐どころじゃねぇぞ!」
「……ッ」
「この"雷手・雷脚"の餌食となれ!」
雷手は、雷を帯びた李光の腕を指し、雷脚は、雷を帯びた李光の脚を指す。
司馬章は、攻撃を防ぐときに考え事をしていた。どうしたら、この循環から抜け出せるだろうか、と。
その時、司馬章は初めて思超を使ったときのことを思い出した。あの時は、炎を思いっきり掌から吹き出すイメージで手を突き出したところ、その通りになったのだ。
(そうか!思超の使い方はイメージによって違う!)
そう考えた司馬章は、あえて防御を辞め、李光に殴られた。
「司馬章!」
(コイツ…何か別のことを考えていたな)
李光は司馬章が戦闘中に考え事をしていたことに気付いた。
「司馬章、あと五秒だ」
彼はカウントダウンを始める。
五 四 三 二
司馬章にとって、イメージの時間は十秒以内で十分だった。「一」の言葉が放たれると同時に起き上がった。
「よし、やろう」
「そうでなくちゃ」
李光は再び雷手・雷脚をバチバチと鳴らせ、飛びかかった。
「喰らえ…"雷兵拳"!」
李光の拳に付着した雷が司馬章の肌に触れたときだった。
(今だ)
司馬章の皮膚から吹き出した炎が李光に当たり、その熱さで彼の攻撃を止めた。
(この俺が攻撃を止めた!?)
李光は驚いた。孫操備も驚いている。
「やっとその速度に対応できるようになったかもな」
と、司馬章は嬉しそうに腕を振る。
「お、お前、なぜこの速度に対応できた」
李光が冷や汗を掻きながら聞いた。
「簡単だよ。身体中の皮膚の内側に炎が血液のように揺らいでいることをイメージした。毛穴から少しずつ火を漏らしながらな」
司馬章は続ける。
「少しでも皮膚に刺激が走ったら、内側から皮膚ごと燃やしながら、刺激の元まで炎を飛ばす…そんなイメージさ」
常に炎を纏いながら敵を攻撃するより、常に溜め込んだ炎を反射的に放つ方が、脳で「反撃しよう」と考える時間が削減されるため、素早い敵に対応できるようになったのだ。
「俺は李光のように素早くはないが、ついさっき、それに適応する術を身に着けた。李光は確かに素早いが、雷を常に纏っているように見える」
「まッ、まさか!」
李光が身震いをした。
「気づいたんだよ、俺」
司馬章は並の速度で李光に迫り、彼に触れた。
「"赤波"」
もし、李光が逃げ続ければ、これを喰らうことはなかっただろう。しかし、一瞬でも体が触れたとき、李光は技を回避できない。
ついに李光は熱い炎を直接喰らい、体制を崩した。
しかし、李光は倒れて五秒後に立ち上がった。
「なかなかやるようだ。少し前にお前に使った言葉が恥ずかしいよ」
「俺もだ!思超家の強さを改めて知った、打倒天理を軽く感じた俺もまた恥ずかしい!」
お互いが笑みを浮かべて対峙する。
「これでッ!最後だ!」