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「蒸気街のパン屋と御曹司」蒸気機関が発達した世界。その下層街にあるパン屋ですが、敵企業の御曹司が毎日パンを食べに来ます  作者: かあまる01


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第5章 8話 それぞれの覚悟(前編)

 蒸気機関が発達した街、グラン・ロア


 下層区のパン屋で暮らす機械いじり好きの少女エマは、じいちゃんと穏やかな毎日を送っていました。


 ある日、《歯車亭》の釜が壊れてしまい、パン屋が開けられなくなりました。途方に暮れるエマにルークが出した提案は、お屋敷のメイド!?


 メイド修行のなかでできた新しい友達、そして海外から戻ってきたルークそっくりの従兄弟になぜか迫られて、エマはどうなってしまうのか!?


 恋愛、モノづくり、そして蒸気あふれる下町の空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。


 感想・ブックマーク・評価をいただけると、とても励みになります。よろしくお願いいたします。


※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。

 ミアが元気を取り戻した次の日。エマたちが屋敷の玄関を掃いていると、玄関前に一台の蒸気自動車が止まっていた。


「あれ? お客様かな」


 執事が恭しく扉を開くと、昨日に続いて、アリシアが降りてきた。


「アリシア様、アルバート様がお待ちしております」


「分かりました。何度も来てしまい、お手数をおかけしますわ」


 執事が深く頭を下げると、アリシアも優雅に一礼して返した。


 離れたところでそのやりとりを見ていたミアが、エマの耳に小声でささやく。


「きれいだね、あの人……」


「う、うん。本当に」


 エマも思わず見とれる。


 アリシアも玄関前の二人に気づくと、こちらに向かってきた。


「エマさん、お久しぶりです。ここで働いてることは、ルーク様からお伺いしていました」


 アリシア様は誰にでも分け隔てなく接してくれる方だ。今日も二人に対して柔らかな笑みを浮かべている。


「アリシアさん、お久しぶりです」


 えへへと、エマは嬉しそうに頭を下げた。


「エマ、この方とお知り合いなの?」


 二人が自然に笑い合う様子を見て、ミアは信じられないといった様子で目を見開く。


 玄関から離れたところで、その様子をレオンは少し興味深そうに眺める。


(この人がかつてルークとの婚約話が持ち上がった政府高官の令嬢、アリシア様か)


 レオンはアリシアたちの元に近寄り、軽く会釈した。


「初めまして。レオン・アシュフォードです」


 レオンの会釈に答えて、アリシアも礼儀正しく頭を下げる。


「初めまして。アリシア・フォン・ベルクです」


 短い挨拶を終えたあと、アリシアは違和感に気づく。レオンがこちらに近づいたときの、エマたちへ向ける笑顔と、自分へ向ける笑顔。どれも自然な笑顔だけど……なにかが違う。


 言葉では説明できない、ほんのわずかな違和感。まるで相手によって、距離の測り方を変えているような……。


 ここで詮索しても仕方ないことだ。アリシアは疑惑を頭の隅に置き、屋敷へと入ってゆく。


     ◇


 アルバートとの用件を終えたアリシアは、応接室を出て廊下を歩いていた。すると、中庭から楽しそうな笑い声が聞こえる。


 窓越しに視線を向けると、レオンが植え込みの手入れをしていたエマへ声を掛けていた。


「エマちゃん、ちょっと休憩しよう」


「でも、お仕事がまだ終わってなくて」


「マーサさんには僕から言っておくよ」


 そう言ってレオンは木陰のベンチへ誘う。エマは少し迷った末、「少しだけなら」と、小さく頷いた。


 二人が並んで腰掛けると、少し離れた場所では、ルークが執事と話をしていた。ルークはベンチにいるエマに気づき、視線が無意識にエマの方へ向く。


 エマもまた、ルークに気づくと、少し困ったように優しく微笑んだ。その横でレオンも笑ってルークに向けて手を挙げている。


 レオンの笑顔を見た瞬間、アリシアの疑惑が確信に変わった。


(……そういうこと)


 アリシアの青い瞳が静かに細められる。


 エマとルークは互いに意識していることが、一瞬見るだけで伝わってくる。


 それなのに、レオンはその間へ自然に入り込もうとしている。意識していないようで、わざと行なっている。


 アリシアの胸の奥の違和感が、確信へと変わる。偶然ではない、あの方は何か目的を持って動いている。

 

 少し見ていると、エマがマーサに呼ばれて席を立ち、屋敷の中に入っていった。


 エマが屋敷の中に入るのを確認したアリシアは静かに踵を返すと、まっすぐレオンのもとへ歩いていく。


「レオン様」


 突然声を掛けられ、レオンは振り返った。


「おや、アリシア様、どうしました?」


 レオンの人懐っこい笑みは変わらない。しかしアリシアの表情は、どこまでも真剣だった。


「少し、お話があります」


 アリシアの静かな声に、レオンは一瞬だけ目を細める。アリシアを見つめ返し、その思考を測るように。


  「蒸気街のパン屋と御曹司」第5章が始まりました! 

今回が最終章、この物語は終わりとなりますが、最後までよろしくお願いします。

 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


 この作品は、月・水・金曜日の更新を予定しています。


 少しでも楽しんでいただけていたら、書いていて良かったと感じます。


 評価・感想・ブックマークなどをいただけると、とても励みになります。


 これからもよろしくお願いいたします!

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