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「蒸気街のパン屋と御曹司」蒸気機関が発達した世界。その下層街にあるパン屋ですが、敵企業の御曹司が毎日パンを食べに来ます  作者: かあまる01


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第4章 5話 街の声

 蒸気機関が発達した街、グラン・ロア


 下層区のパン屋で暮らす機械いじり好きの少女エマは、じいちゃんと穏やかな毎日を送っていました。


 しかしある日、「グラン・ロア再生計画」が動き出し、ルークの婚約者を名乗る少女が突然現れます。


 揺れ動くエマとルークの想い。そして、街の未来を左右する「グラン・ロア再生計画」に隠された真実とは。


 恋愛、モノづくり、そして蒸気あふれる下町の空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。


 感想・ブックマーク・評価をいただけると、とても励みになります。よろしくお願いいたします。


※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。

『街の人たちを説得していただけませんか?』

 アリシアはエマの方に向き直り、優しく微笑む。ただ、その表情は真剣だ。


 アリシアの突然の提案に、エマは思わず周囲を見渡して、それからアリシアの方を見る。

「あ、あの……」


 だめだ、どうしても口角が不自然に上がって顔が引きつってしまう。目が泳いでしまい、まともにアリシアの顔を見れない。


 この人は自分たちの計画が、街のためになると信じて疑っていない。だから、こんなにも堂々としていられるし、街の人たちが、なんでこんなにも反対しているか分からないんだ。


 エマはもう一度街の人々を見る。人々の罵声は止んだが、まだ所々でざわめき、不満の声が聞こえてくる。


 いま街の人々の視線は、アリシアたち役人からエマに向けられていた。まるでエマがどちらの味方なのか確かめるように。エマは街の人たちの懇願の視線から、その不安を肌で感じ取っていた。


 この人たちにみんなの気持ちを伝えたいなら、言葉だけじゃだめだ。エマは決意してアリシアに向き直り、意を決して話しかける。

「あの、アリシアさん、少し一緒に街を歩きませんか?」


 エマはアリシアを連れて広場を後にして、下区の街中を案内する。


 大通りを通ると石畳はあちこちに破損が見られ、所々に水溜りがある。 街の人たちの身なりは決して上等なものではないが、その顔は皆、活気に溢れていた。


 路地裏では子どもたちが石畳に絵を描いて遊んでいる。 鍛冶屋の前でエマが挨拶をすると、笑顔で返してくれる。


 アリシアは周囲を見渡しながら「建物は全般的に古いですわね」と率直に述べる。自分たちの計画が正しいと再確認するように。


 確かに、建物は老朽化が進み、街は直さないといけないところがいっぱいある。だけど、それだけじゃないってことを、どうしたら分かってもらえるんだろう……。


 エマたちが《歯車亭》の前を通ると、じいちゃんが丁度《蒸気リンゴパイ》を焼き上げたようだ。リンゴパイの甘い香りが道路までただょってくる。


 自分の店を紹介しようと思い、アリシアの方を向くと、なんか様子がおかしい。はっ、と何かに気づいた驚きの顔。

「あの……アリシアさん、どうかしましたか?」

 アリシアはエマの声かけも耳に入っていない様子で辺りを見回し、匂いを嗅いでいる。


「この匂い……あのパン屋さんからだわ」

 と言うや否や真っ直ぐに《歯車亭》に向かってゆき、その扉を開ける。アリシアが中に入ると、様々な焼き立てのパンやバターの豊潤な香りに包まれる。


 アリシアは焼き立ての《蒸気リンゴパイ》を見つけると目を見開いて「これだわ!」と光悦した表情を見せる。そして身を乗り出してレジにいた、じいちゃんに興奮して伝える。


「この《蒸気リンゴパイ》全部頂けませんこと? こんなところで売っていたなんて!」

 

 エマはアリシアの思いがけない行動に驚いたが、すぐに気を取り直して買い占めようとするアリシアの間に入る。

「ちょっと待ってください! そんなに買い占めたらみんなの分がなくなっちゃう!」


 エマの言葉でアリシアは我に返り、すぐさま落ち着いた態度を見せる。残念そうに《蒸気リンゴパイ》を横目で見ながら。

「うちのパン、お好きなんですか?」


「『うちのパン』ということは、ここはエマさんのお店なんですね。凄いですわ! 私、ここの《蒸気リンゴパイ》をいつも給仕に買ってきて貰っていますのよ」


 そのとき、《歯車亭》に小さな男の子と女の子が入ってきた。二人はレジに来て、じいちゃんに「蒸気リンゴパイ2つちょうだい」

 と言ってポケットの中から、汚れた硬貨を出すが、少しだけ足りないようだ。二人が顔を見合わせると、じいちゃんが優しく頷く。


「おまけじゃ、二つとも持ってけ。あと、このパンもな。お母さんは元気か? またみんなで来てくれよな」

 じいちゃんに余分なパンを渡された二人は

「ありがとう! 今度は母さんも連れて来るね」と、笑顔で帰っていった。


 二人を見送りながら、エマはアリシアに向き合って伝える。

「あの子たち、たまになけなしのお金を持ってパンを買いに来るんです。お母さんと三人、ここでずっと暮らしてる。


 確かに再生計画が上手く行けば、あの子たちはもっと幸せになれるかもしれない。でも、この街でみんな育って、みんなが重ねてきた人生がある。」


 言いたいことがとめどなく流れて来そうだけど、なんとかこの人たちに分かってもらうように伝えないと。


「再生計画では建物を壊して新しい場所を提供すると言ってたけど、私たちはここで人生を過ごしてきました。ここを壊されるのは今までの人生を壊されるのと同じだって、感じでいる人がいっぱいいます。」


 この人に分かってもらいたい。エマはアリシアの目を見据えて、真剣な口調で伝える。

「街の人たちの気持ちに寄り添って、再生計画を見直してください。お願いします」


 エマは深々と頭を下げて、アリシアの反応を待つ。するとアリシアはエマの両肩に優しく手を置いて、顔を上げるように促す。


「エマさん、私はまだ未熟でエマさんや街の方々の気持ち全てを理解できたわけではありません。ただ、私はエマさんたちの気持ちをもっと知りたい。これからも私に教えて頂けますか?」


 アリシアがエマを見つめて微笑んでいる。違う世界の人だと思っていたけど、この人も同じ人間だから、私たちの気持ちが伝わったんだ。


 アリシアが空を見上げて、決意の気持ちを示す。

「お父様に計画の見直しを迫らないといけませんね」


 「蒸気街のパン屋と御曹司」第4章が始まりました! ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


 この作品は、月・水・金曜日の更新を予定しています。


 少しでも楽しんでいただけていたら、書いていて良かったと感じます。


 評価・感想・ブックマークなどをいただけると、とても励みになります。


 これからもよろしくお願いいたします!

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