第3章 第5話 大切だからこそ
蒸気機関が発達した世界、機械いじりが好きな少女エマは、とあることから古いオートマタ『ノア』と出会います。
機械との向き合い方でルークとの関係はぎくしゃくしてしまい、やがて街全体を巻き込む大事件に発展してしまいます。
機械いじり好きな少女が、パン屋を守るために奮闘するスチームパンク作品です。
恋愛、モノ作り、下町の空気感を楽しんでいただければ嬉しいです。
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※この作品は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しております。
ルークとけんかした夜、エマは自室の窓から、夜空を見上げていた。遠くの工場群から立ち上る蒸気が月明かりに溶けている。
ベッドに寝転がっても、頭の中では昼間の出来事ばかりが繰り返されていた。
『帰って。今は顔、見たくない』
ルークも言ってしまった後、後悔しているかもしれない。つい出てしまった言葉かも知れないのに……。
「何であんなに怒っちゃったんだろう……」
ノアを否定されたから?
もちろんそれもあるけど、それだけではない。ルークは前から機械を大切に扱い、誰よりも技術を愛していた。
そんな彼が、あんな言い方をするなんて思わなかった、だから傷ついた。ルークがノアを受け入れてくれることを期待していたからこそ腹が立ったのかもしれない。
「はぁ……」
エマの口から吐息が漏れる。深呼吸するために、上を向いて窓の外を見る。
ルークのことを考えない日は、一日たりともない。会えれば嬉しい。会えなければ寂しい。
今日、あんなことがあっても、やはり顔を見たいなと思ってしまう自分が少し嫌だ。
「でもそんな簡単に許しちゃいけないかな……」
結局その夜は、一睡もできなかった。
翌朝、店の開店準備をしているとノアが近づいてきた。何か分からないことがあるのかな?
「エマ」
「ん? どうしたのノア」
「エマ、元気がない。浮かない顔してる」
「え、あはは、ノアったら何言ってるの? そんなことないよ。私は元気! ほら」
エマは大げさにガッツポーズを取って、何でもないことをアピールする。
「エマ、元気がない」
ノアに即答で返されて、エマは苦笑する。
「ノアってさ、変なところ鋭いよね」
するとノアは少し考えてから言った。
「ルークのこと?」
思わぬ言葉にエマの動きが止まる。
「どうしてそう思うの?」
ノアは悪気なく首を傾げて、続ける。
「ルークと仲直りしたい?」
そんなに直球で聞かれても、返事に困る。確かにこのままじゃ嫌だ。仲直りしたい。でも、まだ素直になれない。
その時、店の扉が開いて郵便配達員が手紙を持ってきた。
「こんにちは。エマさん宛てに手紙だよ」
渡された封筒を見て、エマは目を見開く。
差出人はルークだった。エマは慌てて封を切ると、中には短い手紙が入っていた。
『この前はごめん』
その一文を見た瞬間、胸が締め付けられる。
続きには。
『嫉妬していた』
と書かれており、エマは思わず二度見した。
「えっ?」
さらに読み進める。
『忙しくて会えなかった間に、ノアが君の隣にいた。客も君も楽しそうで、自分の居場所がなくなった気がした。そう思ってしまった。だから……あんなことを言ってしまった。本当に僕は最低なことを言ってしまったと思う』
最後の一文にはこう書かれていた。
『もしもエマが許してくれるなら、会いたい。時計塔の広場で待ってる』
エマは手紙を何度も読み返した。ルークはノアを否定したのではなく、自分の居場所を失う不安と嫉妬を抱えていたのだと気づく。ルークも反省して傷ついているんだ。なら、ちゃんとルークと会って話しがしたい。
その日の夕方、エマが街の時計塔の広場へ向かうとルークがすでにいつもより少し緊張した表情で待っていた。
無言で見つめ合う二人。
先に口を開いたのはルークだった。
「ごめん」
言い訳もない真っ直ぐな言葉。
「ノアを否定したかったわけじゃない」
「うん」
「ただ……嫉妬したんだ」
「もう……正直過ぎるでしょ」
正直に言われると怒る気も失せていった。
「私もごめん。言い過ぎた」
「いや、それは俺が悪い。俺が言い過ぎた」
不思議だ。あれほど一晩悶々としてたのに、こうしてちゃんと話してみると、案外簡単にわだかまりも解けてしまった。
「ちゃんと見るとノアは良いオートマタだと思う。なんか人間ぽくて、皆んなに好かれて、君が大事にしてる理由が良く分かったんだ」
ルークの言葉にエマは嬉しくなった。
わだかまりも解けて、二人が歩み寄れた気がした。
そしてルークが少し視線を逸らして言う。
「エマ……次の休日、空いてるか?」
「空いてるけど、どうして?」
「二人で湖に行かないか」
予想してなかった提案にエマの心臓が跳ねた。
街外れの湖、それは若者たちの定番デートスポットである。ということはつまり……。
「デート?!」
そういうことになるだろうけど、聞かずにはいられなかった。
言い出したルークも顔が真っ赤になっている。
「まぁ……そういうことになる」
やっぱりデートだ! エマも負けないくらい顔が赤くなり、心臓もドキドキしてきた。
「行く! 絶対!」
そして待ちわびた休日の朝。
だけどエマは鏡の前で、難しい顔をしながら立ち尽くしていた。部屋には洋服が散乱していて、両手に洋服を持って、見比べて首を傾げる。
「パンツスタイルなら動きやすいけど、いつもと変わらないなぁ……」「この淡い色の上着、可愛いけどなんか甘々で照れるかも……う〜ん」
気がついたら一時間ほど悩み続けていた。
エマが選んだのは紺色のワンピース。
動きやすくて、少しだけ大人っぽい。
ワンピースを着て鏡を見る。大丈夫かな?ちょっとクルッと一回転してみる。
「変じゃないよね……?」
エマが呟いても、当然誰も答えてくれない。初めての本格的なデートに胸がどきどきする。
祖父は朝から工匠ギルドの寄り合いへ出かけているため、家にはエマとノアだけしかいない。
「よし! 大丈夫」
小さく拳を握って気合いを入れる。
鞄を持って、忘れ物がないことを確認してから玄関へ向かうと、後ろから声がした。
「エマ」
振り返るとノアが立っていた。
「ノア、ちょっと出かけてくるから、お留守番よろしくね」
エマが言ったその瞬間、かくん、とノアの身体が崩れて、さらに前へ倒れ込む。
「ノア!」
エマは慌ててノアに駆け寄った。
床へ膝をついて覗き込み、ノアの身体を支える。明らかに様子がおかしい。瞳の光が不安定に明滅していて、内部から異音も聞こえる。
「嘘……」
胸が冷たくなる。
一時間後にはルークとの約束がある。ずっと楽しみにしていたデート。
けれど今、目の前でノアが倒れている。
エマは青ざめた顔でノアに話しかけた。
「ノア! しっかりして!」
しかしノアは答えられない。ただ微かに、苦しそうな機械音だけが漏れていた。
第3章、始まりました!ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は月、水、金曜日に更新する予定です。
少しでも楽しんでいただけたなら、書いてて良かったです。
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