第2章 8話 『暴走する雲海特急』
蒸気機関が発達した世界、機械いじりが好きな少女エマ達の街、グラン・ロアに飛行船の時代がやって来ます。ルークとの関係はどうなるのか?そして現れる謎の女性……。
機械いじり好きな少女が、パン屋を守るために奮闘するスチームパンク作品です。
恋愛、モノ作り、下町の空気感を楽しんでいただければ嬉しいです。
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※この作品は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しております。
夜空が、赤く燃えていた。
遠くの空路区画で、巨大な飛行船が炎を噴き上げて、赤い警告灯を点滅させながら夜空を進んでいた。まるで暴走しているみたいに。
空には警報用の赤色灯が何本も走っており、『緊急事態発生——空路三区画封鎖——』拡声器の声が周囲に響く。
エマの胸が強く脈打つ。飛行船で見た補助配管、削られた安全弁。その光景が浮かび上がり、嫌な予感しかしない。
ルークは即座に踵を返した。
「僕は空港区画へ行く。セレナ、エマを連れて安全なところへ、頼む!」
「待って、私も行く! 私も機関構造を知ってるよ。保温機の接続で内部の配管を見たから! 私なら必ず役に立つ!」
エマの強く言い返す真剣な眼差しに、ルークは一瞬黙った。エマの瞳が揺れる。
エマを危険な場所へ行かせたくない。だが同時に、エマの技術が必要なのも分かっていた。
「……頼む。だけど、無理しないでくれ」
ルークは観念したようにエマに告げる。そして決意する。彼女のことは何としても守ると。
エマは工具袋を掴んで、必要な工具をチェックする。レンチ、圧力計、携帯蒸気灯、いつもの相棒たち。よし、揃ってる! 胸は今までにないくらい高鳴っていた。でも、不思議と怖くない。今までルークと一緒に作ってきたもの。その機械で人々に物を届けたいと思った気持ち。全部が、ここへ繋がっている気がした。
二人を見たセレナは意を決して二人に告げる。
「二人共、覚悟は決まったようね。なら、すぐ空港に向かって! 私は後で合流するから。」
エマはセレナが離れることに不安を覚えて、聞かずにいられなかった。
「何処に行くの?」
「必ず戻るわ。それまで頼むわね」
セレナがエマの頭をぽん、と撫でる。その目は優しさに満ちているようだった。
「あなたなら出来るわ」
空港区画は混乱していた。
空では、雲海特急が不規則に高度を変えており、巨大な船体の側面からは白い蒸気が噴き出している。
ルークは管制塔へ走り、職員に確認する。
「現在の制御状況はどうなっている」
職員が青ざめた顔で答えた。
「操縦応答なしです!試験船の補助配管が破裂したようです。このままだと連鎖加圧を起こす可能性があります!」
「乗員はどうなっている?」
「最低人数だけ残ってますが、機関部へ近づけません!」
やがて警報音が変わる。
『緊急連絡。雲海特急、第七空路へ侵入。制御応答なし——』
エマは空を見上げる。
今、空を飛んでいる雲海特急。それは空路時代の象徴と呼ばれ、医療物資や食料を大量輸送する超大型飛行船だ。もしあれで事故が起きれば、被害はこれまでとは比較にならない。雲海特急はこのまま人口密集区へ向かっている。もし墜落したら街が終わる……。
その時、後ろからヒールの音が響いた。
「どうやら間に合ったみたいね」
黒い飛行用耐熱コートを身にまとったセレナがやってきた。
「セレナ!」
「話は聞いたわ」
彼女は空を見上げる。その横顔からいつもの余裕が消えていた。
「最悪ね。もう内部から止めるしかないか。……格納庫の奥に三人乗りの小型高速艇があるわ。それを使いましょう」
沈黙の中、夜風だけが吹き抜ける。ルークは覚悟を決めたようだ。やがてセレナは小さく笑った。
「本当に馬鹿ね、私達……。じゃ、私は先に準備をしているわ」
セレナは格納庫の奥の方に向かっていった。
セレナの話を聞いても私はまだ怖かった。本当は逃げたいくらい。
でも、パンを食べて笑っていた子どもたちの顔が目に浮かぶと、段々と恐怖心も吹き飛んでいった。あの子どもたちに温かいものを、そして安心できる未来を届けたいと思った。それに、私は空飛ぶ郵便の未来をこんなことで失いたくない。
「ルーク、行こう」
覚悟は決まった。ルークの方をしっかりと見据えて言う。もう怖くない。ルークとセレナさんがいるなら、どんなことがあっても大丈夫だ。
セレナは先に格納庫の奥で、小型高速艇の準備をしている。やがてごうん、と低い振動が響き、蒸気機関が起動する音が規則正しく響き渡る。雲海特急へ接舷するための小型高速艇の発進準備が出来たようだ。
夜空では巨大飛行船が、赤く警告灯を点滅させながら暴走している。まるで空そのものが赤く燃えているみたいに。
エマは深く息を吸い、そしてルークと並んで、セレナが待つ小型高速艇へ足を踏み入れた。
——その先に、街の未来がかかっている。
第二章、始まりました!ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら、書いてて良かったです。
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