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「蒸気街のパン屋と御曹司」蒸気機関が発達した世界。その下層街にあるパン屋ですが、敵企業の御曹司が毎日パンを食べに来ます  作者: かあまる01


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第2章 3話『空へ届く、焼きたての夢』

 蒸気機関が発達した世界、機械いじりが好きな少女エマ達の街、グラン・ロアに飛行船の時代がやって来ます。ルークとの関係はどうなるのか?そして現れる謎の女性……。

 機械いじり好きな少女が、パン屋を守るために奮闘するスチームパンク作品です。

 恋愛、モノ作り、下町の空気感を楽しんでいただければ嬉しいです。

 感想・ブックマーク・評価、とても励みになります。

よろしくお願いします。

※この作品は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しております。

 グラン・ロアに夜の帳が下り、飛行船が止まっている係留地を蒸気灯が照らしていくと、空に浮かぶ飛行船の影が、地面に映し出される。


「……すごい」

 上空に浮かぶ巨大な飛行船を見上げて、エマはその場で立ち止まった。空を覆い尽くすその姿に圧倒される。

《スカイ・ヴァルモント社》が誇る新型飛行船《アルバトロス号》。

 銀色の船体に、真鍮の装甲。腹部には巨大な蒸気機関が並び、低い駆動音を響かせていた。

 船内の展望デッキでは楽団が演奏し、上流階級の客たちが談笑しているのが見える。


 係員に案内されて、飛行船の中に入る。

 デッキの人々の華やかな雰囲気に押され、エマはここにいるのが場違いな気がした。緊張を隠すように、工具ベルトをぎゅっと握る。


「エマ、大丈夫?緊張してる?」

 隣でルークが見かねたようで、肩に手を置く。

「してない、してないし!大丈夫だから!」

「嘘だ」

 エマの慌てた様子をみれば、誰でも緊張してるのが分かる。エマは観念したように、

「……ちょっとだけ」と、呟く。


 そんなエマの様子を見て、ルークは自然にエマの手首を引いた。「行こう」と伝えるや否や、そのまま人混みを抜けていく。


 エマの胸の鼓動が高鳴る。手を引かれているだけなのに、妙に意識してしまう。手が震えてるの、バレてないかな?


 ルークの横顔を見ると、時折こちらをみるが、あまり意識してないみたい。ただ、エマが迷子にならないように手を引いているだけ。

 ……それが余計にずるい。もう。


 二人が展望デッキへ着くと、冷たい夜風が吹き抜けた。少し冷たい空気が心地よい刺激となり、エマの胸の鼓動もだんだんと収まってきた。


 エマは柵へ駆け寄り、デッキの端から外を眺めると、グラン・ロアの街灯が遥か下方に広がっている。窓の灯りが街を美しく彩り、灯りに沿って遠くまで続く石畳。蒸気列車の光は流れ星のようだ。


「うわぁ……」

 自分の知っている街なのに、まるで違う景色に見えた。その絶景に思わず息を飲む。

「空から見る街って、こんななんだ……」

 エマの気持ちに同調するように、ルークが隣へ並ぶ。

「僕も初めて見たときは、言葉が出なかったよ。空から見る景色がこんなにも美しいなんて」

 

「二人とも、お熱いわねぇ」

 後ろからの声に、二人は同時に振り返ると、セレナがグラス片手に微笑んでいた。

「いいわね、青春してて」


 セレナの指摘に本心を突かれて、二人は慌てて距離をとる。エマの顔が赤くなり、収まったはずの胸の鼓動がまた一段と高まってゆく。ルークはどう思ってるんだろうか、見上げてルークの表情を読み取ろうとするが、その真意は分からない。


 ルークは慌ててセレナをたしなめたが、彼女は楽しそうに肩をすくめただけだった。そして、すぐエマの方に向き直り、表情を変える。

「では、これからは仕事の話をしましょうか」


 先ほどまでとは打って変わって、凛とした大人の女性の表情。巨大空輸企業《スカイ・ヴァルモント社》の女性社長の顔が、そこにあった。エマは彼女の表情の変化に思わず息を飲んだ。


 二人は隣の会議室に案内される。室内のソファに、座って楽にするように促されて、二人が座ると彼女はテーブルの上に《スカイメール計画》と書かれた書類を出す。


「この計画を簡単に言うと、地方や山岳地帯へ、小型飛行船で郵便や食料を運ぶ一大事業よ。だけどまだまだ問題があって、長距離輸送だと食事が冷める。特に冬場は深刻ね。温かいスープは途中でぬるくなるし、パンは硬くなる」


 エマは話を真剣な顔で聞いて、答えを出す。

「だから保温機が必要なんだ」

「そうなの。て、どう? あなたの機械、試してみる?」

 エマの目を真っ直ぐに見て、セレナはにやりと笑った。エマの答えが分かっているように。

 セレナの挑発的な笑みも気にせず、エマは目を見開く。眼前に新しい世界が広がっているのに、断る理由はない。

「決まりのようね。では、採用試験は一月後。楽しみにしてるわ」


 数日後。

 《歯車亭》の工房は、《循環式空輸保温機》の部品が床中に散らばっており、足の踏み場もないほどだ。ルークも毎日のように工房へ来て、手伝っているが、不具合が起こるたびに二人の怒声が店の外からでもよく聞こえてくる。


「もっと軽量化しないと!安全を確保した上で、削れるものは1グラムでも削るよ!」

「これ、配管が重いんじゃないか?素材を変えるか、取り回しを見直せないかな……って、あっ!エマ、また蒸気が漏れてる!」

「今すぐ直すから!ルークは弁を閉じて蒸気を止めて!」


 エマは昨日も殆ど眠れなかった。頭の中にいろんなアイデアが浮かんで、頭が冴えて眠れない。だけど不思議と辛くない。機械をいじっていると時間を忘れて、気がつけば工房で朝日を迎えるのが日課になっていた。


 私の作った機械が空を飛んで、遠くへパンを届ける。自分の発明が、街の外へ出ていく。頭の中に未来像が浮かぶたびに胸が熱くなった。


「ここは補強したほうがいいな」

「んー……でも重くなる」

「なら素材を変えるか」

 二人で設計図を囲む時間が増えて、ぶつかることもあるけれど、気がつけば二人の息もぴったり合う。一緒に笑うことも増えた。

 祖父はそんな二人を、影から温かく見守っていた。


 そして一ヶ月後。試験飛行の日が来た。

 夜明けの係留地に、小型郵便飛行船が停泊している。エマの《循環式空輸保温機》は船内に固定されており、飛行船の中は、乗組員達が飛行準備に向けて、慌ただしく動いている。


 エマとルークは飛行船の中、保温機の側で離陸を待っている。エマは保温機の最終チェックに余念がない。乗組員達につられて慌ただしく動いているように見える。そんな様子を見て、ルークは思わず「緊張してるの?」と聞く。


 エマは素直に頷く。どうしても不安な気持ちが抑えられず、弱音を吐いてしまう。

「失敗したらどうしようって思うと、じっとしていられないよ。こんな機会、もうないかもしれないのに……」


 そんなエマの気持ちを受け止めて、安心させるようにルークは静かに言う。

「失敗しても、また直せばいいさ。いつも君はそうやってきただろ」

 その言葉がエマの中に心地よく染み渡る。

「うん……」エマは少し笑った。


 気がつくと、地上の方が慌ただしくなってきた。地上のクルー達が機体の先端にある係留索を調整して、風上に向けて機体が固定される。バラストを調整するために、船内が慌ただしくなる。


 蒸気機関が作動する音が聞こえ始め、プロペラの回転数が上がってゆく。そして地上の係留スタッフが、固定していたロープを一斉に解き放すと、同時に垂直方向にふわりと飛行船が離陸する。


 蒸気音の音と共に、グラン・ロアの街が遠ざかっていく。窓からは街が段々と小さくなり、明かりが水面に反射する様子や、宝石を散りばめたような美しい夜景が静寂の中で映し出されていた。


 エマはこの美しい景色をいつまでも眺めていたかったが、今日の目的はこの《循環式空輸保温機》が無事に目的地まで壊れずに持っていけるかの試験飛行だ。感慨にふけってる暇はない。


 飛行中も、《循環式空輸保温機》の各部のチェックを怠らない。計器は異常な値を示していないか、各部品は正常に作動しているか、温度が上がりすぎていないか、冷めてないか……考えだすとキリがないが、心配せずにはいられない。


 フライトから数時間後、飛行船は目的地の山岳地区へ到着した。山間の小さな村には石造りの家々が並ぶ。標高が高いためか、肌寒い空気にエマは身震いする。保温機は大丈夫かな?


 すぐにエマは待ちきれない思いで、《循環式空輸保温機》の蓋を開ける。のぞき込んだエマの顔を包み込むように温かな湯気が立ち上った。

 パンは柔らかいままで、スープも熱を保っている。成功だ!ルークと顔を見合わせる。二人共に笑みがこぼれて、自然に手のひらを叩き合わせた。


 飛行船の周りには、地元の人たちが集まっている。物珍しさで飛行船を見に来た人、郵便物を待ちわびた人、そして、子ども達がパンを今か今かと目を輝かせて待ちわびていた。

 

 早速、エマからパンを受け取った子どもが、その瞬間に目を輝かせた。

「まだあったかい!」

子どもたちの小さな手が次々伸びて、パンを手にした子どもたちは嬉しそうに頬張る。

「ふわふわだ!」

「こんなに美味しいパンは初めて!」

 目の前でその声を聞いた瞬間、エマの胸がいっぱいになった。自分の機械が、ちゃんと誰かを笑顔にしたことが、こんなに嬉しいなんて!


 グラン・ロアに帰還後、港ではセレナが待っていた。すでに現地から報告を受けていると言われ、二人はそのまま執務室まで案内される。


 エマは執務室のソファに座りながら、対面のセレナが報告書に目を通しているのを見ていると、なんだか落ち着かない。出されたジュースも喉を通らないくらいに。

 やがてセレナは報告書を閉じて告げる。

「——合格。あなた達の《循環式空輸保温機》は《スカイメール計画》に正式採用します。同じ仕様で、数台作ってもらえるかしら」


 セレナの言葉にエマは一瞬、頭が真っ白になる。か、すぐに息を飲んで、セレナに確認する。

「……ほんとに?」

「そうよ。あなたの機械で運んだパンが、皆んなの心を動かしたからね」


 エマは思わずルークを見る。ルークも笑ってエマの肩を叩き、「やったな」と、一言告げる。


 セレナの優しい笑みから出た次の言葉は意外なものだった。

「今夜、空中レストランに来なさい。二人きりで話したいことがあるわ」


 第二章、始まりました!ここまで読んでいただきありがとうございます。


 少しでも楽しんでいただけたなら、書いてて良かったです。


評価・感想・ブックマーク、など頂けたら嬉しいす。

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