洞窟探索と神の使徒
次の日、セシルの提案で、隣町との中間地点にあるという洞窟へ足を運んだ。
ここは安全だが、少し奥へ進めば高く売れる『夜光石』が採掘できるという話だった。
アル「暗くてジメジメしてやがるな。……おっ、あそこの壁が光ってるぞ。あれが夜光石か?」
俺が松明の灯りを頼りに壁に近づき、無造作に手を伸ばそうとした瞬間だった。
ザイン「おお、止まりなさい、アル!! その壁に張り付いている青い苔に触れてはいけません!」
普段のふざけた態度とは違う、鋭く通る声だった。俺は思わず手を止める。
ザイン「……危ないところでしたね。それは『嘆きの青苔』です。触れれば皮膚を溶かし、胞子を吸い込めば肺が腐り落ちて三日で死に至る、極めて悪質な毒ですよ。セシルの魔法の明かりで、よく見てごらんなさい」
セシルが杖の先端を光らせて壁を照らすと、夜光石の周囲には、青白く不気味な粉を吹く苔がびっしりと自生していた。
セシル「……本当だ。僕も本で読んだことがあるけど、実物は初めて見たよ。ザイン、よくあんな暗がりで気づいたね」
ザイン「ふふっ。伊達に神の使徒を名乗ってはいませんからね。病や毒といった世界の不浄を見極め、回避するのもまた、エリートたる私の清浄なる務めなのです」
ザインは懐から水袋を取り出すと、自分の法衣の裾を破って湿らせ、俺たちに渡した。
ザイン「これを口と鼻に巻きなさい。そしてアル、槍の石突きで苔を傷つけないように、石の根元だけを正確に削り落とすのです。……さあ、私が安全な採取手順を完璧に指示して差し上げましょう!」
その後、ザインの驚くほど正確な医学的・化学的知識の誘導のもと、俺たちは誰一人毒を浴びることなく、安全に高価な夜光石を袋いっぱいに採掘することができた。
普段はふざけてばかりの生臭坊主だが、腐ってもエリート。その知識が、俺たちの命を確実に救った瞬間だった。
夕方、ギルドで夜光石を換金すると、銀貨3枚というなかなかの額になった。
これでパーティ資金は20万リアを突破した。
サイドストーリー
帰り道、ザインは胸を反らせて得意げに歩いていた。
ザイン「どうです、フィオ殿! これが私の神聖なる知識の力です! 命を救われた感謝として、私の鞄を代わりに持ってくれても構いませんよ!」
フィオ「やあやあ、おじさん! すごいじゃないか、ただのインチキ詐欺師だと思ってたのに、本当はただのキノコと苔のオタクだったんだね! 感心したよ!」
ザイン「 オタクとは何ですか! 私は神の教えを解くエリート聖職者ですよ! 褒めているようで絶妙に貶めるのはやめてください、不条理です!」
ミラ「まあ、今日はアンタのおかげで助かったのは事実だよ。ほら、ご褒美に干し肉の端っこを分けてやるから、黙って歩きな」
ミラから投げ渡された干し肉を受け取り、ザインは「これが神への喜捨ですか……」と不満げに呟きながらも、どこか嬉しそうにそれを齧っていた。




