街道の準備と市場の目利き
翌日、俺たちは食堂でマーサが用意してくれた粥を啜りながら、セシルがギルドで見つけてきた新しい依頼について話し合っていた。
セシル「……これだね。隣町まで商人の馬車に同行する『ランクD:隊商護衛』。往復で3、4日はかかるけど、報酬は銀貨15枚。長期遠征になるけど、今の僕たちならこなせるはずだよ」
アル「3、4日か……。野宿も増えるだろうし、しっかり準備しねえとな。マーサ、遠出に向く食料について相談に乗ってくれねえか?」
マーサ「おや、いよいよ遠征かい! 景気がいいね。遠出するなら、塩気が強くてカチカチに焼いた保存パンと、燻製にした猪の肉がいいよ。あと、水に混ぜる酢も忘れちゃいけない。お腹を壊したらおしまいだからね!」
マーサのアドバイスを受けた俺たちは、さっそく市場へと向かった。
ミラ「……チッ。アル、そっちの店は冒険者からボッタクるんで有名だよ。アタシについてきな。裏通りに、見た目は悪いけど質がいい保存食を安く卸してる店があるんだ」
市場に入ると、ミラの独壇場だった。彼女はスラム仕込みの鋭い嗅覚と交渉術で、商人たちの言葉の裏を読み、次々と良質な備品を適正価格以下で揃えていく。
ミラ「このパン、去年の麦が混じってるだろ。あと銅貨3枚負けな。……そう、それでいい。アル、次はこっちだよ」
一方、ザインもまた別の意味で活躍していた。
ザイン「おお、神よ! この水袋は少し不浄なカビの臭いがしますね。店主、こちらの清浄な新品を中古と同じ価格で提供することこそ、神への正しい契約ですよ」
慇懃無礼なザインの物言いに店主が毒気を抜かれている間に、俺たちは遠征に必要なものをすべて揃えることができた。
フィオ「やあやあ、ワンちゃん! 見ておくれよ、ボクはこの『激辛の揚げ木の実』を見つけたよ! これがあれば長旅も退屈しないね!」
アル「おい、それはお前の遊び用だろ! ……まあいい。準備は整ったな」
食料、水、簡易的な野営道具。これらを揃えるのに大銅貨5枚ほど使ったが、それ以上の価値がある買い出しができた。明日の早朝、俺たちは護衛対象の商人と合流し、カランドラの門を出る。
サイドストーリー
市場の喧騒の中、ミラは時折、鋭い視線で周囲の路地を窺っていた。
ミラ「……アル、さっきから変な視線を感じる。アタシたちの銀貨の匂いを嗅ぎつけたネズミかもしれないね。……でも大丈夫。もし近づいてくるなら、そこの角で指の一本も折って、神様への喜捨代わりに置いていかせてやるから」
アル「ミラ……物騒なこと言うなよ。でも、頼りにしてるぜ。お前がいてくれなきゃ、俺は今頃適当な店でゴミみたいな食料を掴まされてた」
ミラ「……チッ。アンタは本当にお人好しだね。……ほら、残りの買い物、さっさと済ませるよ。あんまりチンタラしてると、置いていくからね」
ミラは顔を少し赤くして(怒っているようにも見えたが)、足早に次の店へと向かって歩き出した。




