闇に潜む銀猫の偵察
ザインの祈りによって最悪の悪臭は免れたものの、鉄格子を抜けた先の地下水路は、松明の光すら吸い込むような暗闇と湿気に包まれていた。
遠くで水滴が落ちる音が、不気味に反響している。
アル「いきなり全員で降りて、ネズミの群れに囲まれたら終わりだ。ミラ、悪いがお前が先に行って、安全なルートと苔の場所を探ってきてくれないか?」
ミラ「……人使いの荒いリーダーだね。まあ、ガンテツみたいなデカブツが足音を立てて歩いたら、ネズミに『晩御飯が来ましたよ』って宣伝してるようなもんか。任せな、アタシの足音は誰にも聞こえないよ」
ミラは松明を持たず、暗闇に溶け込むように音もなく水路の奥へと消えていった。
残された俺たちは、水路の入り口付近で息を潜めて待機する。
十数分後、微かな水音とともに、ミラの小柄な影が闇の中からすっと戻ってきた。
ミラ「ただいま。……いいニュースと悪いニュースがあるよ。どっちから聞きたい?」
セシル「論理的に考えて、脅威の排除が最優先だ。悪いニュースから頼むよ」
ミラ「右の通路の奥、汚水溜まりの周りにジャイアントラットが3匹ほど群れてる。どうやら生ゴミを漁ってるみたいだね。で、いいニュースはそのすぐ先の壁に、目的の『発光苔』がびっしり生えてるってことさ」
ガンテツ「ガハハ! どっちもいいニュースじゃねぇか! ネズミを叩き潰せば、尻尾も苔も両方手に入るって寸法だ!」
ザイン「おやおや、野蛮な思考ですねぇ。ですが、この不浄なるネズミを討ち払い、世界の平穏をもたらすことこそが真の『功徳』。……もちろん、その神聖なる功徳の対価として、尻尾の売上は等分に分けていただきますがね」
アル「よし、3匹なら俺たちでも十分にやれる数だ。油断せずに行くぞ」
サイドストーリー
俺たちがミラの案内で慎重に歩みを進めていると、背後からザインのくぐもった悲鳴が聞こえた。
ザイン「ひっ!? い、今、何か柔らかくて得体の知れないものを踏みましたよ!? ああ、私の神聖な靴が……!」
アル「おい、大声出すなよ。ただの腐った木箱だ。それに浄化の祈りがかかってるんだから気にするな」
ザイン「そういう精神的な問題ではないのです! ああ、神の使いである私の足元が泥まみれだなんて。帰ったら靴を磨くための特別なお布施を要求しますからね!」
セシル「……君の信じる神様は、ずいぶんと世俗的なことに厳しいんだね。歩くたびに文句を言うなら、僕が君の口を物理的に塞ぐ魔法の詠唱を始めるよ?」
ザイン「……沈黙もまた、祈りの一つの形ですからね。今は静かにしておきましょう」




