貧乏パーティの現実と知識の恩恵
朝の冷気を含んだ風を切り、俺たちは冒険者ギルドへと足を運んだ。
ギルドの中は、すでに一稼ぎしようと息巻く冒険者たちの熱気と、安酒と汗の入り混じった独特の臭いに満ちている。
アル「……腹が減って力が出ねぇ。宿で出たあの水っぽいスープと石パンの耳だけじゃ、戦う前から倒れちまうぜ」
セシル「当然だよ、アル。だからこそ、今の僕たちのコンディションを正確に把握して依頼を選ぶ必要がある。さあ、掲示板を確認しよう」
セシルは人混みをかき分け、壁に貼られた大量の羊皮紙を鋭い目で見極めていく。
文字が読めない俺やガンテツにとって、この時間はセシルの独壇場だ。
セシル「……うん、Dランクの討伐依頼はどれも報酬は魅力的だけど、今の僕たちには自殺行為に等しいね。ポーションを買う資金すらない今の状態で怪我でもしたら、一発で破産だ」
ガンテツ「ガハハ! 違いねぇ! わしの盾も、腹が減っちゃ重たくて敵わんからな! まずは今日のまともな飯代を稼ぐのが先決だ!」
ザイン「……ええ、全くです。私の貴重な魔力を無駄にしないよう、怪我の少ない安全で、かつ実入りの良い神聖な任務をお願いしますよ」
ミラ「アタシは今日の寝床が確保できれば何でもいいよ。……まあ、屋根裏部屋よりマシなベッドで寝たいけどね」
セシル「うるさいな、少し黙っててよ。……よし、これにしよう。ランクEの『地下水路の清掃と発光苔の採取』だ。雑用だけど、全員でこなせば今日の飯代と宿代くらいにはなる」
俺たちはセシルが選んだ依頼書を引き剥がし、受付へと向かった。
受付には、疲れ切った顔をしながらも手際よく書類を捌く女性職員、エリーナが座っていた。
エリーナ「あら、アルさんのパーティね。……ランクEの依頼ね。それじゃあ、契約の確認と代読料として、報酬から大銅貨1枚分を……」
セシル「お断りします、エリーナさん。契約内容なら、すでに僕が全て読み、不備や理不尽な免責事項がないことも確認済みです。盲目契約はしませんので、代読料の天引きは無効ですよね?」
セシルは流暢な言葉で契約書の条項をいくつか暗唱し、エリーナに突き返した。
彼女は少し驚いたように目を見開いた後、苦笑いをして肩をすくめた。
エリーナ「……相変わらず抜け目がないわね、学園上がりは。分かったわ、代読料は無し。正規の報酬を全額支払うわ。怪我に気をつけてね」
アル「すげぇな、セシル。お前がいなきゃ、あのまま何も知らずにピンハネされてたってことか」
セシル「これが『知識』の力だよ、アル。無文字の冒険者がどうやって搾取されているか、これで分かっただろう? さあ、依頼書に君のサイン(×印)を書いて。日が暮れる前に終わらせよう!」
サイドストーリー
受付での手続きを待つ間、俺たちの後ろに並んでいたガラの悪い冒険者たちが、クスクスと笑い声を上げていた。
「おい見ろよ、あのパーティ。また地下水路のドブさらいかよ。冒険者なら剣一本でデカい魔物を狩ってみせろってんだ」
「全くだ。無文字の連中はこれだから困るぜ。まあ、あのガキがいなきゃ、文字通り何もできない『白紙』の連中なんだろうがな」
ミラ「……チッ。あいつら、あとで財布の紐を緩めてやる。……冗談だよ、アル。そんな怖い顔しないでよ」
ザイン「おやおや、ミラさん。復讐は神の教えに反しますよ? ……やるなら、もっとバレないようにやるべきです」
ガンテツ「ガハハ! 吠えさせておけ。最後に笑うのは、安全に腹一杯飯を食った方だからな!」




