残された命の灯火
大爆発の白煙が完全に引き、静寂を取り戻した制御室。
床には、自爆によって無残な鉄クズと化したメイド長の残骸が転がっている。第2層の完全制圧という最大の勝利を収めたはずだったが、俺たちの間には悲壮な空気が漂っていた。
アル「ザインの魔力は完全に底を突いてる。意識が戻るのを待っていては……ガンテツの命が持たない!」
アルはガンテツの首筋に触れたまま、血の気の引いた顔で叫んだ。
ドク、……ドク、と今にも途絶えそうなほど、ガンテツの心音は弱まり続けている。鎧の隙間から流れ出る鮮血は、フィオが涙ながらに布で強く圧迫しているものの、完全に止まる気配はない。
セシル「……分かった。僕たちの手持ちのポーションを、今ここで全て使おう。出し惜しみしている場合じゃない!」
セシルは背嚢をひっくり返し、これまでの遠征で蓄えていた、ポーションの小瓶をすべて床に並べた。青く輝く液体が入った瓶が、全部で5本。
アル「ミラ、ポーションを傷口に流し込むんだ! セシル、お前はガンテツの口から飲ませてくれ! フィオ、そのまま止血を続けてくれ、頼む!」
全員が役割を理解し、一瞬の迷いもなく動き出した。
ミラが手際よくガンテツのへこんだ胸部装甲の隙間を抉り、露出した酷い裂傷と火傷の跡へ、容赦なくポーションの液体を注ぎ込んでいく。シュウゥゥと音がして、傷口の肉が微かに泡立ち、強引に塞がろうとするが、重傷すぎてすぐにまた血が溢れてくる。
セシル「これでも足りない……! 2本目だ!」
セシルがガンテツの顎を支え、喉の奥へと2本目、3本目と立て続けに薬液を流し込む。
しかし、過去に経験したことのない大爆破のダメージは深く、ガンテツの巨体はピクリとも動かない。
フィオ「ガンテツ……! お願い、目を開けてよ……っ!」
フィオの涙がガンテツの煤けた顔にポツポツと落ちる。
4本目を使い切った時点で、まだガンテツの呼吸は浅いままだった。
アル「……これが最後の一本だ。頼む、届いてくれ……!!」
アルが最後の一瓶をひったくるように奪い、ガンテツの全身の火傷の酷い箇所へと万遍なく振りかけた。神に祈るような、あまりにも緊迫した数秒の沈黙。
手持ちのポーションをすべて消費し尽くしたその時――。
ガンテツ「……が、……はぁッ!」
ガンテツの大きな身体が、大きく一度だけ跳ねるように震えた。
そして、ゴホゴホと激しく煤を吐き出しながら、ゆっくりと、しかし確実にその胸が大きく上下に動き始めた。鎧の隙間からの出血が、ぴたりと止まる。
ミラ「……血が、止まった。呼吸も安定してきてる!」
セシル「はぁ……。一命を取り留めた、ね。これなら、もう今すぐに命がどうこうなることはないはずだ」
セシルがその場にへたり込み、大きく安堵の息を吐き出した。
アルもまた、手の震えを抑えながら、ガンテツの胸の確かな鼓動を感じていた。まだ意識は戻らず、全身の骨折や火傷の跡が完全に消えたわけではない。当分の間、戦闘不能であることは変わらないが、最悪の事態(死)だけは、完全に回避することができたのだ。
アル「みんな、ありがとう。……手持ちの回復薬は空っぽになっちまったが、仲間を失うことに比べれば安いもんだ」
床に横たわるガンテツと、その傍らで魔力枯渇により眠り続けるザイン。
絶対に安全なこの制御室の中で、俺たちはひとまず、最悪の危機を乗り越えた。残されたのは、手付かずのまま俺たちを待っている奥の宝物庫だ。体力と物資を激しく消耗したものの、俺たちの絆は、この試練を経てさらに強固なものへと変わっていた。




