静かなる収穫
ガンテツの呼吸が完全に安定したのを見届け、アルは深く息を吐き出しながら全員を見渡した。
アル「手持ちのポーションは空になったが、幸い遠征用の食料と水はまだ5日分以上残っている。ここは絶対安全なセーフルームだ。無理に動かさず、ここで数日間滞在してガンテツの体力が戻るのを待とう」
セシル「それが賢明だね。地上の街まで彼を背負って帰るのもリスクが高すぎる。……あ、ザインが目を覚ましたみたいだよ」
「う、ぬぅ……不条理なる……爆発……」とうめき声を上げながら、魔導核の自爆の余波で気絶していたザインがゆっくりと上体を起こした。まだ魔力は空っぽでふらついているが、神官としての頑丈さのおかげか怪我はない。
ザインは、自分の代わりに爆風を正面から受け止め、包帯に包まれて眠るガンテツの姿を見ると、その場に膝をついて拳を握りしめた。
ザイン「ガンテツ殿……。このザイン、不覚にも気絶し、あなたに盾とならせてしまうとは……ッ。アル殿、私が彼の看病を務めます。魔力が戻り次第、私の神聖魔法で彼の組織を完全に修復してみせましょう。それまで、彼を不条理な苦痛の中に放置することは断じて許されません!」
アル「ああ、頼んだぞ、ザイン」
ザインにガンテツの看病を任せ、動けるアル、セシル、ミラ、そして気持ちを切り替えたフィオの四人は、この滞在期間を利用して第2層の「展示物の回収」を進めることにした。
すでに防衛システムは全滅し、メイド長も消滅したため、通路や展示室は完全に安全な空間へと変わっている。
ミラ「それじゃ、プロの目利きでお宝をザクザク回収させてもらうとするかね!」
ミラは工具袋を肩にかけ、破損していない美術品や、古代王族が飾っていた高価な調度品の取り外しにかかった。セシルはそれらのマジックアイテムとしての価値や歴史的背景を鑑定し、アルとフィオが傷をつけないよう丁寧に背嚢へと詰めていく。
かつては命がけの戦場だった『王様の箱庭』第2層は、今や静かな考古学的調査の場となっていた。
時折、制御室に戻ってはガンテツにスープを飲ませ、ザインの魔力回復を待ちながら、俺たちはじっくりと遺跡の富を文字通り「回収」していくのだった。
サイドストーリー
滞在2日目の夜。
制御室の中は、魔法のランタンの柔らかな光に包まれていた。
夕食を終え、魔力が半分ほど戻ったザインが、ガンテツの火傷の痕へ向けて静かに治癒の光を注いでいる。その傍らで、フィオはいつもより少し小さな音で、リュートの弦を優しく爪弾いていた。
『う、う~ん……』
重い鉄の寝返りのような音を立てて、ついにガンテツの目がうっすらと開いた。
フィオ「あ……! ガンテツ!」
フィオがリュートを置き、真っ先にその顔を覗き込む。
ガンテツ「……フィオ、か。がはは……妙に身体が軽いと思ったら、わしの自慢のヒゲが少し焦げてやがるな……」
ガンテツはまだ動かない右腕を苦笑交じりに見つめ、それから床に散らばった、木っ端微塵になった「特注の大盾」の破片に目を留めた。長年、彼の命を守り、数々の魔物の爪を弾いてきた相棒の無残な姿だった。
ガンテツ「……そうか。わしの盾は、あのブリキ人形の自爆に耐えきれんかったか。職人失格だな……」
ぽつりと、寂しげに呟いたガンテツの言葉に、フィオはぎゅっと胸が締め付けられるような思いがした。いつも豪快に笑っている頑固なドワーフの背中が、一瞬だけ小さく見えたからだ。
フィオは再びリュートをしっかりと抱え直すと、ガンテツの枕元で、静かに、しかし力強く弦を鳴らした。
フィオ「そんなことないよ! ガンテツの盾は、世界で一番強かったよ! だって、ザインも、ボクたちも、みんなを守って、最後の最後まで壊れなかったんだもん!」
それは、いつもの戦いの歌ではなかった。
傷ついた防人を労い、その誇りを称える、吟遊詩人の古い伝承歌――『不屈の鍛冶師に捧ぐ詩』。
フィオの澄んだ歌声が、静かな制御室に染み渡っていく。
ガンテツはしばらく無言でその歌を聞いていたが、やがて、残った左手で自分の顔を覆い、ガハハ、と小さく震える声で笑った。
ガンテツ「……違いねえ。盾は砕けたが、守るべきもんは一枚も欠けちゃいねえ。ならば、わしの勝ちだ。なぁ、歌姫よ」
フィオ「うん! ガンテツの大勝利だよ!」
フィオが満面の笑みで頷く。ガンテツの目が、失われた大盾への未練を捨て、さらに強固な「次なる傑作」を見据える職人の鋭い輝きを取り戻したのを、アルたちは壁際で静かに見守っていた。




