熱狂の終焉
赤熱する装甲から噴き出す異常な熱波が、制御室の空気を焼き焦がしていく。
魔力暴走状態となったメイド長は、もはや知性ある指揮官機ではなく、ただ周囲のすべてを破壊するためだけの熱源体と化していた。
アル「……攻撃するな! 全員、壁際まで下がれ! 奴の魔力管が焼き切れて、自滅するまで耐え抜くんだ!」
セシル「同感だ。あれは長くは持たない。時間稼ぎに徹しよう!」
ミラとセシルが素早く後退し、フィオが最後尾で防御力を高める祈りの歌を紡ぎ始める。
だが、暴走状態のメイド長は、高圧蒸気を噴射する反動だけで強引に跳躍し、燃え盛る戦斧を大上段に構えて突っ込んできた。
その絶望的な質量の熱塊の前に――白金に輝く法衣の神官と、鋼の重戦士が立ちはだかる。
ザイン「メイドとして、いや存在として!! 不条理の極みィィィッ!!!」
ザインの身体から、これまで見たこともないほどに濃密で眩い光のオーラが爆発的に立ち昇る。メイドという存在に対する常軌を逸した執念と、神官としての純粋な信仰心が完全に融合した、究極の防御魔法。
ザイン「『神聖なる防壁』ッ!!!」
制御室の床から天井までを覆い尽くす、分厚い光の城壁が顕現した。
だが、その光の壁よりもさらに前。真正面に飛び出し、最も危険な最前線に陣取ったのはガンテツだった。
ガンテツ「ガハハ! 神官様は後ろで祈ってな! わしが一番前で、文字通りの『壁』になってやる!」
巨漢の重戦士がザインの前に立ち塞がり、愛用の特注大盾を構え、大地に両足の根を張る。
直後、メイド長の赤熱する戦斧が、ガンテツの大盾へと激突した。
『ドゴォォォォォォンッ!!!!!』
凄まじい衝撃音と共に、光と炎が制御室内に吹き荒れる。
ガンテツが物理的な盾となり、その後ろからザインの防壁が圧力を支える二段構え。フィオの歌が二人の力を底上げするが、メイド長の内部魔力はすでに臨界点を突破していた。
『……警告……魔導核、溶解……。最終、防衛プロトコル……自爆、シークエンス……ッ』
メイド長の赤い双眸が盲目的な輝きを放ち、その胸部が目を開けていられないほどに膨れ上がっていく。
セシル「ザイン、ガンテツ! 離れて、自爆する気だ!!」
アル「戻れッ!!」
叫びは、間に合わなかった。
『――カッ!!!!!』
制御室全体が真っ白な光に包まれ、次の瞬間、限界まで圧縮された魔力が大爆発を起こした。
『ドゴォォォォォンッ!!』
一番前に立っていたガンテツが、爆風と超高温の熱波の全てを正面からその身に受ける。
ガンテツの特注大盾は熱量と圧力に耐えきれず、粉々に砕け散った。爆風は容赦なくガンテツの肉体を焼き、衝撃波が重装甲をへこませて骨を砕く。
ガンテツの巨体を飲み込んだ余波が、その後ろに展開されていたザインの光の城壁をも突き破り、ガラスのように粉砕した。
ザイン「ぐ、あ……ッ!!」
絶対防壁の崩壊による強烈な魔力反動を受け、ザインは吐血してそのまま意識を失い、後方へ吹き飛ばされる。だが、ガンテツが最前線で威力の大部分を殺していたおかげで、ザインや後衛陣に致命傷は届かなかった。
大爆発の余波が収まり、もうもうと立ち込める黒煙の中から、プスプスと音を立てて崩れ落ちる物体の影が見えた。
メイド長だ。自らの魔導核を完全に爆発させたことで、その巨体は炭化し、二度と動くことのないガラクタとなって床に転がった。
無限補充の防衛システムは、ここに完全に沈黙した。
しかし、制御室に勝利の歓声はなかった。
アル「ガンテツ――ッ!!!」
アルが狂ったように叫び、煙の中へと飛び込む。
そこには、完全に破壊された大盾の破片の傍らで、全身から血を流し、大火傷を負ってピクリとも動かないガンテツが倒れていた。鎧の隙間から溢れる血が床を赤く染めていく。鉄壁の戦士が、息も絶え絶えの重傷を負っていた。
ミラ「嘘、だろ……ガンテツ、目を開けなよ!!」
セシル「ザインは意識を失っているだけだけど、魔力が空っぽだ……! 急いで傷薬を!!」
セシルが手持ちのポーションを取り出し、ガンテツの酷い傷口へと次々に注ぎ込む。
フィオに回復魔法は使えない。だが、彼女は涙をボロボロとこぼしながらも、震える手で清潔な布を強く押し当て、必死にガンテツの止血を手伝っていた。
フィオ「う、うん……っ! 死んじゃやだ、ガンテツ、死んじゃやだ……っ!」
アルは槍を床に放り出し、ガンテツの胸元に手を当てる。微かだが、まだ鼓動はある。
第2層の完全制圧という偉業の代償は、あまりにも大きかった。俺たちは重苦しい静寂と焦燥感の中、傷ついた仲間を救うため、必死の救命処置を続けるのだった。




