不協和音の告発
メイド長の内部から蒸気が噴き出し、赤い双眸がひときわ強く輝いた。ジリッ、と重い一歩を踏み出し、再び戦斧が持ち上がる。
アル「来るぞ! 防御と回避に徹しろ! 絶対にまともに受けるな!」
アルの警告と同時に、メイド長は巨大な戦斧を横に構え、重戦車のような勢いで突進を開始した。狙いは、体勢を立て直したばかりの前衛陣、特にアルだ。
アルとミラは左右に跳躍し、ガンテツは大盾を斜めに構えて突進の軌道から外れ、牽制の体勢を取る。セシルが牽制の風魔法を放ち、少しでも突進の威力を削ごうとするが、メイド長はそれを物ともせず、アルに向かって戦斧を水平に振り抜いた。
アルはとっさに床に伏せ、頭上を通過する戦斧を紙一重で躱す。戦斧は空を切り、そのままの勢いで制御室の壁に深く突き刺さった。
ミラはその隙を見逃さず、メイド長の背後に回り込みながら、アーマーピックを装甲の隙間、首関節へと狙いを定める。だが、メイド長は壁に刺さった戦斧を強引に引き抜き、その反動を利用して独楽のように回転、ミラを弾き飛ばそうと戦斧を振り回した。
ミラは鋭い反応でバックステップを踏み、ギリギリのところで戦斧の軌道から逃れる。
その時だ。激しい戦闘音と金属の軋み音の中で、ミラの鋭い聴覚が、ある「不協和音」を捉えた。
メイド長が回転を止め、次の攻撃のために改めて左足を踏み出した瞬間、『ギギ、……ガ、ガ。』という、他の関節音とは明らかに違う、魔導オイルが枯渇しかけているか、内部ギアが摩耗しているような、嫌な軋み音が左膝の関節付近から響いたのだ。
(今の音……!?)
他の者には聞き取れないほどの微音。しかし、数々の罠や隠し扉の音を聞き分けてきたミラは直感した。あの分厚い装甲に覆われた巨体の中で、唯一、左膝の駆動系だけが、その重すぎる上半身と戦斧の重量に耐えかねて悲鳴を上げている。
ミラ「アル! あいつの左膝だ!」
ミラは回避した体勢のまま、声を張り上げた。
ミラ「左膝の駆動音がおかしい! 経年劣化か過去の傷か分かんないけど、あそこだけ関節に問題があるはずさ! あそこを潰せば、あのクソ重い戦斧も振り回せなくなる!」
アル「左膝だな!よくやったミラ!」
アルの目に、再び勝利への鋭い光が宿る。
これまでどこを突けばいいか、どの魔法が通るか皆目見当がつかなかった絶望の鉄塊。だが今、ミラの直感によって、明確な『標的』が定められた。
槍の穂先をメイド長の左膝へと向け、アルは次なる反撃の指示を出すべく、深く息を吸い込んだ。




