絶望との対峙、息を潜める英雄たち
戦斧のフルスイングが巻き起こした暴風に吹き飛ばされ、俺たちは制御室の壁際へと叩きつけられた。
全身の骨が軋むような痛みに顔を歪めながらも、アルは即座に声を張り上げた。
アル「散れッ! 距離を取って体勢を立て直すぞ! ガンテツ、正面を頼む!」
ガンテツ「おうよッ……! ガハハ、少しばかり腕が痺れたが、わしの盾はまだ砕けちゃいねえ!」
ガンテツが歯を食いしばりながら立ち上がり、深くえぐれた大盾を構え直してメイド長との間に割って入る。
その背後で、アルとミラが左右に広がり、後衛のセシル、ザイン、フィオを守るように遊撃の陣形を再構築した。
フィオ「♪〜そよ風さん、森の木陰でひと休み! 深く、深ーく息を吸い込んでー!」
フィオがリュートを優しく奏で、癒やしと鎮静の歌を歌い始める。
限界を超えて力を引き出すような激しい歌ではない。今の俺たちに必要なのは、未知の強敵を前にして乱れた呼吸を整え、恐怖心を拭い去るための「適度なバフ」だった。
淡い緑色の魔力が制御室を満たし、打撲の痛みが和らぎ、冷や汗で滑りそうになっていた槍の柄をしっかりと握り直せるようになる。
アル「……助かる、フィオ。頭がクリアになった」
セシル「僕も魔力が安定したよ。でも、油断しないで。あのメイド長、ただの力任せじゃない」
セシルの言う通りだった。
メイド長は、俺たちが陣形を立て直したのを見ると、無闇に追撃を仕掛けてこなかったのだ。
巨大な戦斧をゆらりと構え直し、深紅の双眸をゆっくりと動かして、俺たちの配置を品定めするように観察している。暴走した機械ではなく、極めて高い知能を持った指揮官としての冷徹な佇まい。
ミラ「……嫌な静けさだね。アタシたちが動くのを待って、一番効率のいい殺し方を選ぼうとしてるんだ。装甲に隙もないし、関節部も分厚いカバーで覆われてる」
ザイン「メイドの分際で、こちらを値踏みするなど不条理の極み……! 聖なる光よ、忌まわしき鎖となれ!」
ザインが牽制として、相手の動きを鈍らせる光の呪縛魔法を放つ。
だがメイド長は、戦斧の柄をわずかに傾けただけで、その光の帯をいとも簡単に弾き飛ばしてしまった。弾かれた魔力が床を焦がす。
ガンテツ「チィッ、魔法もまともに通らねえのか!」
アル「焦るな! 今はこちらから仕掛ける必要はない。奴の攻撃パターンと、この規格外の装甲の『継ぎ目』を探るんだ」
アルは槍を低く構えたまま、メイド長から一瞬たりとも目を離さない。
あの恐るべき質量の戦斧を振り回すのだ。いかに優れた古代の機体であろうと、攻撃の瞬間には必ず重心が偏り、装甲がわずかに開く瞬間(隙)があるはずだ。
『ギ……ガ……侵入者、再評価……。殲滅、再開……ッ』
数秒の重苦しい静寂の後。
メイド長の内部から蒸気が噴き出し、赤い双眸がひときわ強く輝いた。ジリッ、と重い一歩を踏み出し、再び戦斧が持ち上がる。
アル「来るぞ! 防御と回避に徹しろ! 絶対にまともに受けるな!」
息を吹き返した俺たちは、圧倒的な死のプレッシャーを放つメイド長に対し、希望を見出すため俺達は決死の情報収集を開始した。




