未知なる強敵、絶望の戦斧
通路に残されたオートマタの残骸を跨ぎ、アル、セシル、ミラの三人は制御室の分厚いスライド扉の前に音もなく張り付いた。
壁越しに、中からガンテツの荒い息遣いと、戦斧が防壁を叩く『ズドォン!』という恐ろしい轟音が響いてくる。そしてその轟音の合間を縫うように、フィオの懸命な歌声が聞こえていた。
アル「……フィオの歌に合わせるぞ。もうすぐサビだ。ミラ、俺の合図で一気に扉を全開にしてくれ」
ミラ「分かってる。中と外から同時にぶっ叩くんだね」
セシル「僕の雷撃でアイツのセンサーを眩ませていっきに攻めよう」
『♪〜負けない心で、立ち上がれー!!』
フィオの歌が最も高く、力強く響き渡った瞬間。
アル「今だッ!」
ミラの腕が弾かれたようにレバーを引いた。ガァンッ! とけたたましい音を立てて扉が全開になる。
メイド長が背後の音に反応して巨大な首をギギッと巡らせた瞬間、内と外からの挟撃魔法が同時炸裂した。
セシル「雷よ、貫け!!」
セシルの手から放たれた極太の雷撃が、メイド長の頭部――深紅に発光する双眸へと殺到した。
制御室の中が白と青の眩い光に包まれ、強烈な放電音が鼓膜を劈く。
ガンテツ「おせえぞアル!しかし、コイツは 決まったぜ! これでただのデカい案山子だ!」
誰もが、メイド長の視覚センサーが完全に焼け焦げ、隙だらけになったと確信した。
――だが。
光が収まった直後、立ち込めるオゾンの焦げた臭いの中から、無傷のメイド長がゆっくりと立ち上がった。
ミラ「……嘘だろ。直撃したはずじゃないか!」
メイド長の顔面装甲には微かな焦げ跡がついただけで、その深紅の双眸は依然として禍々しい光を放っていた。直前、彼女は首の関節を異常な角度で傾け、分厚い肩の装甲で魔法の直撃を逸らしていたのだ。
それだけではない。魔法の余波を受けたはずの内部回路すら、全くショートを起こしている様子がない。これまでの量産型とは、装甲の材質も魔力耐性も次元が違う。
『ギ……ガ……対象、殲滅……ッ!』
メイド長が、その巨体からは想像もつかないほどの恐るべき速度で踏み込んだ。
振り上げられた戦斧が、横薙ぎの軌道を描いて俺たち全員を薙ぎ払いに来る。
アル「全員、伏せろッ!!」
アルが叫ぶと同時、戦斧が空気を引き裂きながら頭上を通り過ぎた。
直撃こそ免れたものの、戦斧が巻き起こした『衝撃波』だけで、アルたちの身体が木の葉のように壁まで吹き飛ばされる。
ガンテツ「ぐおおおッ!? な、なんだこの馬鹿力は……ッ!」
ザイン「くっ……! 防壁が、紙のように……!」
ガンテツの大盾には、今の一撃を掠めただけで深くえぐれたような巨大な傷跡が刻まれ、ザインが展開していた単体防壁はパリンと甲高い音を立てて砕け散っていた。
空気が重い。殺気が肌を刺す。
これまで遺跡で戦ってきたどんな魔物とも違う。ゴブリンの群れや、量産型のオートマタ15機を相手にするのとは訳が違う。
アル(……速い。重い。そして異常なまでに硬い……!)
アルは床に手をつき、歯を食いしばりながら立ち上がる。
槍の穂先を向けても、どこを突けばあの分厚い装甲を貫けるのか全く見当がつかない。これが、古代の王が残した宝物庫の最終防衛機構。
俺たちは今、自分たちの経験を遥かに超える『真の絶望』と対峙していることを、その身に刻み込まれていた。




