壁越しの轟音と小さな綻び
俺達三人は、通気ダクトを這って制御室の真上を通り抜け、素早く外の通路へと飛び降りた。
眼下に広がるのは、指揮官であるメイド長を失い、統率が乱れて右往左往している15機のオートマタと、格納庫から這い出してきた数体の予備機だ。奴らの目は赤く明滅しているものの、先ほどまでの精密な波状攻撃の面影はない。
セシル「……予想通りだ。メイド長が分断されたことで、奴らにエラーが出てるみたいだ!単調な動きしかできていないよ」
ミラ「なら、話は早いね。パパッと鉄クズに変えて、中の三人を助けに戻るよ!」
ミラの言葉を合図に、掃討戦が始まった。
セシルが広範囲の雷撃魔法を放ち、密集していた数体の関節を焼き切る。体勢を崩した個体の胸部装甲へミラのアーマーピックが吸い込まれ、魔導核を的確に粉砕していく。アルも槍を振るい、単調な突進をいなしては急所を貫き、確実に敵の数を減らしていた。
だが――。
『――ズドォォォォンッ!!!』
背後の壁――制御室の方向から、通路の床ごと揺るがすような凄まじい衝撃音が響き渡った。
戦斧が壁や大盾に叩きつけられる轟音だ。ガンテツの怒声やザインの詠唱は、分厚い扉に阻まれてここまでは聞こえない。それが逆に、アルの想像力を悪い方向へと掻き立てた。
(あの怪力だ……ガンテツの盾が砕かれたんじゃないか? ザインの魔力は持っているのか?)
アル「……くっ、早く戻らないと!」
焦りが、冷静なはずのアルの踏み込みを狂わせた。
早く残りの敵を片付けようと、アルは槍を深く突き出しすぎた。急所を外れた槍の穂先が、オートマタの硬い肩装甲に深く突き刺さって抜けなくなる。
『ガガ……ッ!』
痛覚のないオートマタは、槍が刺さったままアルの腕を両手でガッチリとホールドした。そこに、死角から別のもう1機が重い金属盆を振り下ろしてくる。
セシル「アルッ! しまった、雷よ!」
仲間を助けようとセシルも詠唱を急ぎすぎた。焦りによって魔力の収束が甘くなった雷撃は、敵の装甲を黒く焦がすだけで、動きを止めるに至らない。
振り下ろされる金属の塊。アルが歯を食いしばったその瞬間。
ミラ「馬鹿野郎、焦るんじゃないよ!!」
ミラが横から凄まじい速度で跳躍し、アルに組み付いていたオートマタの頭部へ強烈な飛び蹴りを叩き込んだ。敵の姿勢が崩れた隙にアルが強引に槍を引き抜き、後方へ飛び退く。
だが、ミラはその隙にもう1機のオートマタの殴打がミラを襲った。
ミラ「……ッ、チィ!」
アル「ミラ! すまん、俺が焦ったせいで……!」
ミラ「謝る暇があったら構えな! 中の連中は、アタシたちが死ぬ気でこの扉を閉めたんだ。ガンテツたちを信じなよ。アタシたちはアタシたちの仕事を、確実に終わらせるんだよ!」
ミラの鋭い叱咤に、アルは冷水を浴びせられたようにハッとした。
そうだ。リーダーである自分が焦って崩れてどうする。仲間を信じ、自分の役割を全うするしかないのだ。
アル「……ああ、その通りだ。セシル、ミラ。もう一度、俺の指示に合わせてくれ!」
深呼吸を一つ。アルの目に、再び冷静な光が戻る。
完全に落ち着きを取り戻した三人の連携に、もはや綻びはなかった。セシルの魔法が正確に敵の足を止め、アルの槍が死角を潰し、ミラがトドメを刺す。
数分後。通路には、完全に機能を停止したオートマタたちの残骸だけが転がっていた。
アル「――外の掃討、完了だ」
セシル「ミラの怪我は? 大丈夫かい?」
ミラ「ただの打撲さ、ポーションを飲むほどじゃない。それより、さっさと扉を開けて、あのデカブツをぶっ叩きに行くよ!」
制御室の中から響き続けていた轟音は、今もなお鳴り止んでいない。
だが、背後を脅かす雑兵は完全に消え去った。残る敵は、密室に閉じ込められたメイド長ただ1機のみだ。




