決死の時間稼ぎ
『……ドスン……ドスン……ガシャン……ガシャン……』
分厚い金属扉を隔てているというのに、床を通じて腹に響くような重低音が響いていた。
いつもの規則正しい足音に混じり、明らかに質量が異なる「個体」が扉のすぐ向こうまで迫ってきている。最奥で眠っていた指揮官機、メイド長だ。
アル「……みんな、聞いてくれ。外にはまだ15機以上の一般機と、メイド長がいる。正面からやり合ったんじゃ勝ち目はない。だから、まずは奴らを分断する」
アルは手早く、床の見取り図を指差した。
セシル「そうだね。まずは『外のオートマタの撃破』を優先しよう。ガンテツとザイン、フィオの三人でこの部屋にメイド長を誘い込んで『時間稼ぎ』をしてほしい。その間に、僕とアル、ミラがダクトから外へ回り込み、取り巻きを全滅させる」
ガンテツ「ガハハ! 要するに、わしらはひたすら盾になって相手を焦らせばいいんだな! 任せとけ!」
ザイン「メイドの長を相手に防御に徹するなど不条理の極みですが……外の掃除が終わるまで、我が神聖なる防壁が破られることは絶対にありません!」
フィオ「しかたないね。ボクもここで、ガンテツたちを守るために歌い続けるよ!」
ミラが天井のダクトを見上げ、不敵に笑う。
「ポンコツどもなら、アタシたち三人で十分片付けられるよ。手早く外を掃除して、すぐ戻ってくるさ」
作戦は決まった。
全員が制御室の壁際に身を潜め、迎撃の陣形を組む。
中心で待ち構えるのは大盾を構えたガンテツと、杖を握りしめたザインだ。
『……ドォン……!』
扉が外から激しく叩かれ、金属音が室内に反響した。
アル「――ミラ、今だ! 開けろ!」
ミラがレバーを弾き、スライド扉がガガガッと勢いよく開いた。
開いた隙間から滑り込んできたのは、ひんやりとした殺気と、立ち込める古びたオイルの臭いだ。そして光の届かない通路の向こうから、深紅の双眸を発光させた巨大な影が、凄まじい威圧感と共に突入してきた。
『ギ、ガガ……侵入者、排除……ッ!』
一回り大きなメイド服の装甲、その手に握られた、身の丈を超える巨大な「戦斧」。間違いなくあれはヤバい。まともに喰らえば良くても重症……もしくは……。彼女は狭い入り口を強引に押し通り、制御室内へとその巨体で踏み込んできた。
ザイン「入りました! 聖なる光よ、不条理を拒絶せよ!!」
メイド長が部屋に侵入したその刹那、ザインが杖を突き出す。
メイド長の背後――わずかに開いた扉の隙間を塞ぐように、超高密度の光の壁が展開された。メイド長に続いて部屋に雪崩れ込もうとしていた一般型オートマタたちが、防壁に激突して火花を散らす。
ミラ「しまるよッ!!」
ミラがレバーを引き戻し、防壁のすぐ後ろでスライド扉が完全に閉ざされ、重いロックの音が室内に響き渡る。
分断は完璧に成功した。
メイド長は背後の扉が閉まったことを意に介さず、赤い目を不気味に明滅させると、手にした巨大な戦斧を大きく振り上げた。
ガンテツ「来やがれ! わしの大盾がそう簡単に砕けると思うなよ!」
『ガキィィィィンッ!!!』
メイド長の戦斧がガンテツの大盾に叩きつけられ、凄まじい衝撃波と火花が制御室内に吹き荒れる。ガンテツの足元の石畳が砕け、彼の巨体が数センチ後ずさった。恐るべき怪力だ。
アル「ガンテツ、ザイン! 無理はするな、ひたすら時間を稼いでくれ! 俺たちは外を片付けてくる!」
アル、セシル、ミラの三人はその隙を突き、素早く天井裏の通気ダクトへと飛び上がった。
制御室でのメイド長との決死の耐久戦と、外に残されたオートマタの掃討戦。二つの戦いが同時に幕を開けた。




