そして目覚める絶望
二度目の作戦は、午前中のそれとは比べ物にならないほどスムーズに進行していた。
フィオの『灼熱砂漠の太陽賛歌』と『ゴーレムのお散歩』に乗せ、前衛陣は稼働中15機の猛攻をまるで舞踏のように捌き続ける。一度経験したことで敵の攻撃パターンや踏み込みの癖を完全に把握しており、ザインの防壁に負担をかける前に、アルの槍とガンテツの大盾が的確に敵の姿勢を崩していた。
セシル「……完璧だね。午前中よりずっと安定してる。この調子なら、時間はいくらでも稼げるよ」
ガンテツ「ガハハ! 一度見たブリキのオモチャの動きなんざ、二度も通用するかってんだ!」
一方、壁の向こう側の格納エリアでも、ミラも淡々と作業をこなしていた。
魔力ワイヤーの結節点の位置、ポーションを注ぐタイミング、装甲の隙間を突く角度。すべてが最適化され、無駄な動きは一切ない。
二曲目が終わる頃には、未稼働の予備機は、残すところ「あと数体」にまで激減していた。
ミラ「――よし、いいペースだ。これで終わりにしてやるよ」
そして、いよいよフィオの第三曲目、最もテンポの速い『盗賊のステップ』が通路に響き渡り始めた。
その軽快なリズムに乗って、ミラは残る数体にトドメを刺すべく、一番奥のエリアへと踏み込んだ――その瞬間だった。
『……ギ……ガガッ……』
重く、そして底冷えするような機械の軋み音が、暗闇の最奥から響いた。
ミラは背筋に氷を当てられたような悪寒を覚え、ピタリと動きを止める。
視線の先、ワイヤーの罠とは完全に独立した台座の上。通常のオートマタより一回り以上大きく、分厚い装甲と巨大な戦斧を持った指揮官機――『メイド長』の双眸に、禍々しい深紅の光が灯ったのだ。
ミラ「……ッ! ここで起きるのかよ!」
稼働中の15機を壊さずに維持するという条件は守っている。だが、予備機の大部分が破壊されたことで、遺跡の防衛システムが「異常事態」を検知し、強制的に指揮官機を起動させたのかもしれない。
メイド長の巨大な駆動部が蒸気を吹き上げ、ゆっくりと戦斧モップを持ち上げる。
ミラ「チッ……あと数体だったのに。欲張ったら死ぬね、こりゃ!」
ミラの判断は早かった。プロの盗賊としての生存本能に従い、残る数体の予備には目もくれず、全速力で通気ダクトへと跳躍した。
直後、メイド長の戦斧がミラのいた床を粉砕し、激しい振動が格納庫を揺るがした。
「戻ったよ! 閉めな!!」
制御室の天井裏から飛び降りてきたミラが叫ぶ。
その声の切迫感にただ事ではないと悟ったアルたちは、瞬時に敵を弾き飛ばして制御室へと飛び込んだ。
アル「ガンテツ!」
ガンテツ「おうよッ!」
重厚なスライド扉を力任せに閉め、分厚いロックを何重にも降ろす。
ガシャン、ガシャンといういつもの15機の音に混じり、ドスン、ドスンという地響きのような重い足音が扉の向こうに近づいてくるのが聞こえた。
アル「……はぁ、はぁ。ミラ、無事か? 何があった?」
ミラ「アタシは無傷だよ。予備の連中も、残りは数体ってところまで減らした。……だけど、最悪のオマケが目を覚ましたよ」
ミラの報告に、全員の顔が引き締まる。
あの巨大なメイド長が、ついに稼働し始めたのだ。
セシル「……おそらく、予備の残数が一定ラインを下回ったことで、最終防衛機構が作動したんだろうね。つまり、これ以上の足止めや別動隊の作戦は通用しないってことだ」
ザイン「いよいよですか。不条理の元凶にして、メイドどもの長……!」
稼働中15機に加え、残る数体の予備、そして未知の力を持つ「メイド長」。
敵の総数は明確になったが、最大の脅威が今、この扉のすぐ向こう側で俺たちを待ち構えていた。




