第二曲目『星降る夜の恋人たち』と、怒涛の解体
フィオの『荒野のウサギの行進曲』が歌い終わり、間髪入れずに第二曲目『星降る夜の恋人たち』が始まった。
それまでの軽快なアップテンポから一転、地下通路に物悲しく美しいバラードのメロディがしっとりと響き渡る。
通路の防衛隊は、ザインが汗だくになりながら展開する「神聖なる防壁」を盾に、突進してくる15機の猛攻をいなし続けていた。アルの槍が金属の足を払い、ガンテツの大盾が重い突進を弾き返す。
その戦闘音の裏側で、壁を伝って聞こえてくるバラードを聴きながら、格納エリアのミラは途方もない速度で手を動かしていた。
ミラ「――15、16……17。チッ、これじゃあ3曲目が終わるまでに、稼ぎが足りないね!」
予備のオートマタに張り巡らされた「連動警報ワイヤー」。これを一つずつ解除しながら魔導核を抜き取る作業は時間がかかりすぎていた。
一度の作戦で格納庫の全てを全滅させる必要はないが、なるべく多くの予備を潰しておかなければ、今後の「殲滅作業」が長引いてしまう。
ミラは少しでも作業効率を上げるため、ポーション袋から、青く輝く「高濃度マナ・ポーション」を一本取り出した。
ミラ「エセ神父じゃないけど……たまには賭けてみるか……」
ポーションの液体を、アーマーピックの刃先にドボドボと振りかける。
ミラは狙いを、個体ごとの魔導核ではなく、複数が連結している「ワイヤーの結節点」へと定めた。
そこへ、ポーションにより魔力を帯びたピックを力任せに突き立てる。
『バチチチチチッ!!!』
激しい放電現象が未起動のオートマタたちの間を駆け抜けた。一瞬だけ、並んだ人形たちの目が怪しく明滅する。
ワイヤーの警報回路が、ポーションの過剰な魔力によって「一時的な過負荷」に陥ったのだ。システムがエラーを起こし、ハッチが開くことも、警報が鳴ることもない。
ミラ「――よし、アタシの勝ちさ!」
システムが復旧するまでの僅か数分間。ミラはまるで風になったかのように、直立不動のオートマタの群れの中を駆け抜けた。
目にも留まらぬ速さでアーマーピックが突き出され、装甲の隙間から魔導核が次々と抉り取られて床に転がっていく。
『カラン、コロン、カラン、カラン……!』
無機質なコアが床を転がる音が、フィオのバラードの調べに乗せて、小気味よいリズムを刻んでいく。
22、31、38、45――。
ポーションの効果が切れるまでの僅かな間に、ミラは驚異的な速度で「46機」もの予備を機能停止に追い込んだ。
まだ格納庫の奥には数十機以上の未起動個体が眠っているのが見えたが、深追いは禁物だ。ポーションのフリーズ効果が弱まり、ワイヤーが再び微かな光を取り戻し始めていた。
サイドストーリー:フィオのアドリブと、壊れた調律
一方、制御室の前では、曲調の急変が思わぬハプニングを生んでいた。
フィオがしっとりとバラードを歌い上げた瞬間、遺跡の音響効果のせいか、オートマタたちの挙動が奇妙に変化したのだ。ゆったりとした曲のテンポに合わせるように、奴らの金属ブラシの振り下ろしが、極端なタメを作った「変則的なタイミング」へと変化した。
ガンテツ「おいおいおい!? なんだこのスカしたタイミングは! 逆に合わせづらくて盾がスカるだろッ!」
アル「くっ……! 攻撃の軌道が読みにくい! セシル、魔法で引き剥がしてくれ!」
セシル「風よ! ――だめだ、完全にこちらの足並みが乱されてる!」
前衛のステップが乱れ、ザインの防壁に金属ブラシがまともに激突し、不気味な軋み音を立てる。
これを見たフィオは、歌いながら目を見開くと、即座にリュートの弦を激しく掻き鳴らした。
フィオ「♪〜星は降るけど! 恋人たちは! 荒野を駿馬で駆け抜けるんだよォォッ!!」
セシル「……ええっ!? 突然、行進曲!?」
フィオはバラードの歌詞のまま、無理やりテンポを三倍に跳ね上げ、激しい戦闘曲へと変貌させた。
その途端、遺跡に響くフィオの魔力が前衛の五感にズバッと突き刺さり、アルとガンテツの身体が軽くなる。変則的なタイミングに惑わされることなく、迫り来る15機の手を力強く槍で叩き落とし、大盾で床へと叩きつけ直した。
アル「助かった、フィオ! そのまま歌いきってくれ!」
ザイン「素晴らしい! 恋人たちの暴走、じつに素晴らしい不条理です! 我が防壁、再び完全展開ィッ!」
熱く激しい戦歌が壁を伝い、格納庫のミラの背中をも強烈に後押ししていた。




