第一曲目『荒野のウサギの行進曲』と、静かなる暗殺
朝。遺跡の冷たい空気が張り詰める中、俺たちはそれぞれの持ち場についた。
ミラが無言で親指を立て、素早い身のこなしで通気ダクトの奥へと消えていく。彼女が展示室奥の格納エリア上空へ到達するまでの時間を測り、アルは制御室の分厚いスライド扉に手をかけた。
アル「……よし。フィオ、歌の準備はいいか。俺が開けると同時に、第一曲目のスタートだ。前衛組、絶対に『壊すなよ』!」
フィオがリュートを構え、大きく息を吸い込む。アルが一気に扉を開け放った。
『ガシャン、ガシャン、ガシャン!』
扉が開いた瞬間に侵入者を感知したオートマタが、一斉に赤く目を光らせてこちらへ殺到してくる。
その金属音をかき消すように、フィオの明るく軽快な歌声が地下通路に響き渡った。
フィオ「♪〜荒野のウサギがピョンピョンピョン! 砂漠の太陽、へっちゃらさー!」
ザイン「おおお……! 我が神よ、ご覧ください! あの不条理なる鉄人形どもの大群を!」
ザインが白金に輝く法衣を翻し、杖を高く掲げる。光の粒子が凝縮し、制御室の入り口を完全に塞ぐ「神聖なる防壁」が展開された。
オートマタたちの振り下ろす金属ブラシや鉄盆が次々と防壁に激突するが、ザインの凄まじい執念が籠もったバリアはヒビ一つ入らない。
ガンテツ「ガハハ! 盾役ならわしに任せておけ! バリア越しに押し返すだけなら造作もねえぞ!」
セシル「僕も魔法で少し関節の動きを鈍らせるよ。ザイン、右から3体が集中的に叩いてくる、防壁の出力をそっちへ回して!」
アルは槍の柄を使い、強引に押し入ろうとする個体の足を払って転ばせる。防衛部隊の連携は完璧だった。フィオのアップテンポな第一曲目に乗せられ、俺たちは15機の攻撃を「ただひたすらにいなし続ける」という防衛線を構築していた。
――一方その頃。
壁越しに微かに聞こえてくるフィオの歌を頼りに、ミラは格納エリアのダクトから音もなく床へと舞い降りていた。
薄暗い空間には、セシルの推測通り、数十体もの未起動のオートマタが直立不動で並んでいる。これら全てが、通路の戦力を維持するための予備兵力だ。
ミラ「さてと。歌が終わる前に、このデクの坊どもの魔導核を全部くり抜いてやるよ」
ミラは愛用のアーマーピックを引き抜き、一番手前にいる個体の胸部装甲へ刃先を滑り込ませようとした。
――その時。ミラの鋭い盗賊の勘が、背筋に冷たい警鐘を鳴らした。
ミラ「……っと。ただの案山子じゃないってわけか」
ピックの先端をピタリと寸止めし、ミラは目を細める。
魔導の微かな光。未起動のオートマタたちの胸部装甲の隙間から、極細の「魔力ワイヤー」のようなものが伸びており、隣の個体、さらに隣の個体へと、クモの巣のように連結されていたのだ。
ミラ「なるほどね。ただコアを壊せば、このワイヤーが切れて警報が鳴るか、防衛システムが作動して全員が一斉に目を覚ますって仕掛けか。やってくれるじゃないか、古代の王様は」
通路では、仲間たちが命がけで15機を足止めしてくれている。
フィオの『荒野のウサギの行進曲』はすでに中盤を過ぎていた。
ミラ「時間制限付きの極細パズルのお出ましってわけだ。アタシを焦らせようったって、そうはいかないよ」
ミラは額に滲んだ汗を拭い、特殊な工具を取り出した。
まずはワイヤーの魔力を迂回させる処置を施し、それから装甲を開けてコアを抉り出す。一つ一つ、繊細かつ高速で性格な作業が求められる。
微かに響くウサギの行進曲のリズムに合わせ、ミラは格納エリアの罠という見えない敵との孤独な戦いを開始した。
サイドストーリー:神官の執念と、モップの雨
激しい防衛戦が続く制御室の入り口では、ザインがかつてないほどの集中力を発揮していた。
『ガガンッ! ガンッ! ガガガガッ!』
金属のモップと巨大な鉄盆が、雨あられと神聖防壁に打ち付けられる。本来であれば、これだけの質量攻撃を受け続ければ、いかに高位の神官といえども数分で防壁が砕け散るはずだった。
しかし、ザインの目は血走り、口元には歪な笑みすら浮かんでいた。
ザイン「ハッハッハ! 無駄です、無駄ですよメイド人形ども! 床を磨くべきそのモップで人を殴ろうなどという言語道断の不条理、我が信仰の光が断じて許しはしません!」
ガンテツ「おいおい、なんだか今日のザインはいつもより頼もしいじゃねえか。バリアが普段より分厚く見えるぞ」
セシル「……メイド人形に対する個人的な怒りと執念が、信仰心を底上げしているみたいだね。動機はどうあれ、今は助かるよ」
ザインの法衣は汗でぐっしょりと濡れていたが、その両足は床に根を張ったように微動だにしない。
フィオの陽気な歌声と、メイドのモップがバリアを叩く轟音。遺跡の地下深くで、決して交わることのない奇妙な音楽祭が繰り広げられていた。




