見送りの朝と、陽炎の先へ
買い出しと準備を終えた翌朝。夜明けと共に『赤猫亭』の1階へ降りると、すでに厨房からは香ばしいパンとベーコンの焼ける匂いが漂っていた。
俺たちの重装備と膨れ上がった背嚢を見た女主人・マーサは、お玉を持ったまま呆れたように息を吐いた。
マーサ「……また随分と大荷物じゃないか。どうせまた、何日も帰ってこない気なんだろ?」
アル「ああ。少し遠くの『洞窟』を調べてくる。前みたいに心配はかけないよ、今回は準備も万全だからな」
マーサは無愛想に鼻を鳴らしたが、その手は普段よりも明らかに厚切りにしたベーコンを俺たちの皿に盛りつけていた。
マーサ「アンタたちの部屋はちゃんと掃除して取っておくんだから、家賃分はきっちり生きて帰ってきな! 帰ってきたら、熱々のシチューくらいは用意して待っててやるよ」
ガンテツ「ガハハ! ありがてえ! その言葉だけで、ハンマーの威力が倍になりそうだわい!」
温かい朝食を胃に詰め込み、赤猫亭を出た俺たちは、そのまま足早に冒険者ギルドへと向かった。
早朝のギルドはまだ人が少なかったが、受付嬢のエリーナはすでにカウンターで書類仕事の準備を始めていた。
アル「おはよう、エリーナ。これから数日、カランドラを離れる。遠征の報告も兼ねて、顔を出しておこうと思って」
エリーナは俺たちの装備の充実ぶりに目を丸くした後、柔らかく微笑んだ。
エリーナ「……そうですか。オーク・チーフテンの一件で皆さんの実力は十分に証明されていますが、それでも油断は禁物ですよ。アルさん、無茶だけはしないでくださいね」
ミラ「ありがとよ、受付のお嬢さん。すぐにでっかいお土産話を持って帰ってくるから、楽しみに待ってな」
ギルドを後にし、カランドラの東門を抜ける。
太陽が昇るにつれて、目の前に広がる『嘆きの荒野』にはゆらゆらと陽炎が立ち上り始めていた。
サイドストーリー:荒野の風と覚悟
一歩、また一歩と荒野の乾いた土を踏みしめる。前回の逃げるような道中とは違い、今の俺たちの足取りには確かな力強さがあった。
ザイン「……ふぅ。何度来ても、この荒野の砂埃には慣れませんね。法衣の裾が汚れないように歩くのも一苦労です」
セシル「文句を言わない。今回はチャックさんの助言通り、まずは『安全地帯』を確保するのが第一目標だ」
フィオ「♪~砂漠の風は熱いけど、ボクらの心も燃えている~! お人形さん、待っててねー!」
アルは振り返り、はるか後方に霞むカランドラの街壁を一瞥した。
次にあの街の門を潜る時、夢にまで見たあの「家」を手に入れる。
アル「行くぞ、みんな。目指すは『王様の箱庭』だ」
アルの号令に仲間たちが力強く応え、一行は陽炎の向こう側――地図にない遺跡が眠る砂の海へと足を踏み入れた。




