机上の箱庭、次なる遠征への道標
朝食を終え、ザインの洗濯代を巡るひと騒動が落ち着いた後、アルは部屋の扉にしっかりと鍵をかけた。
宿の主人であるマーサにも、他の冒険者にも絶対に聞かれてはならない話――俺たちの未来を決める、未発見の遺跡『王様の箱庭』への本格遠征に向けた作戦会議の始まりだ。
アルが懐から取り出したのは、前回の探索で命がけで持ち帰った「遺跡の構造図」。古い羊皮紙をテーブルの上に広げると、セシルが魔法の灯りを少し落とし、ミラが周囲を警戒するように窓の隙間を塞いだ。
アル「みんな、体調は万全だな。オークの一件で思い知った通り、今の俺たちが実力以上の高難度依頼に手を出すのはリスクが高すぎる。治療費や休養期間を考えれば、むしろ遠回りだ」
アルは構造図の『第二層・展示室』と書かれた区画を指差し、言葉を続けた。
アル「だからこそ、次の本命はここだ。この展示室の完全攻略に乗り出す。今回遠征の明確な中目標は、『展示室のオートマタ(自動人形)の完全排除』、そして『飾られている古代美術品の根こそぎ回収』だ」
ミラがふむ、と顎に手を当てて構造図を覗き込む。
ミラ「前に行きかけた場所だね。あの時は隠密と陽動でやり過ごしたけど、次は正面から叩き潰すってわけだ。あそこに配置されているオートマタは、確か鋼鉄と陶器でできた給仕人形や清掃人形だったね。数はそれなりにいたはずだよ」
ガンテツ「ガハハ! 望むところだ! シールド・ゴーレムの鉄板をブチ抜いたゴードンの特注ハンマーがあれば、あの人形どものブリキの身体なんて、一撃で鉄クズに変えてやるわい!」
ガンテツが愛用のウォーハンマーの柄をポンポンと叩き、豪快に笑う。先の戦いで得た確かな手応えが、重戦士の血を滾らせていた。
セシル「……問題は、あいつらが集団で襲いかかってきた場合の連携だね。オートマタは恐怖を感じないし、一糸乱れぬ動きをしてくる。私が雷撃魔法で動きを鈍らせるから、そこをアル、ガンテツ、ミラの三人で確実に一体ずつ粉砕していってほしい」
アル「ああ、焦って囲まれるのが一番危ない。通路を背にするか、ガンテツの盾を起点にして、確実に各個撃破していこう。俺の槍の石突も、あの金属の身体を内側から破壊するのに役立つはずだ」
サイドストーリー:お宝の価値と、執念の聖職者
作戦の骨子が固まっていく中、セシルが展示室に眠る「お宝」の価値について改めて説明した。
セシル「あの展示室は、当時の王族が賓客を歓待し、自国の富と技術を見せつけるための場所だ。飾られているのは、現代の技術では再現不可能な古代の宝飾品や、魔導具の数々。美術品としての価値だけでも、数点持ち帰ればかなりのお金になるはずだよ」
ミラ「へえ、そいつは泥棒冥利……じゃなくて、冒険者冥利に尽きるねぇ」
その時、ずっと静かに拳を握りしめていたザインが、ギラついた目で身を乗り出してきた。
ザイン「……アル殿。その作戦、私も全力で神の加護を付与いたします。特に、あの巨大な金属ブラシを持ったメイド型人形……! 私の法衣を物理的に研磨しようとしたあの不条理な存在だけは、この手で、あるいはガンテツ殿のハンマーで木っ端微塵にしなければ夜も眠れません!」
フィオ「あはは、ザインまだ根に持ってるんだ。でも、あのモップがけはボクもちょっと怖かったなー。ボクも全力で、みんなの武器が軽くなるような歌を歌うね!」
フィオが頼もしく胸を張る。
一度は逃げ帰るように撤退した遺跡。だが今の俺たちには、ゴーレムを粉砕した新しい武器があり、死線を共にした強い絆がある。
机の上の構造図を見つめる全員の目が、ただの「金策」ではなく、未知を切り拓く本物の冒険者のそれに変わっていた。
アル「よし、方針は決まりだ。『展示室逆襲作戦』を決行するぞ!」
「おう!!」と、仲間たちの力強い声が、静かな部屋に響き渡った。




