血塗られた牙と、黄金の重み
カランドラの東門を抜けた俺たちは、休むべきだという体の悲鳴をねじ伏せ、そのまま冒険者ギルドへと直行した。
重い両開きの扉を押し開けると、夜の喧騒に包まれていたギルドが一瞬にして静まり返った。無理もない。傷だらけで血と泥と脂にまみれた五人が、互いに肩を貸し合いながら亡霊のように立っていたのだから。
アル「……エリーナ。依頼、完了したぞ」
アルが足を引きずりながらカウンターへ進み、腰に括り付けていた巨大な「オーク・チーフテンの牙」をドンッと叩きつけた。
エリーナ「ア、アルさん……!? 皆さん、なんてひどい怪我……!」
いつも冷静なエリーナが、血相を変えて立ち上がった。彼女の視線が、血に濡れたチーフテンの牙と、満身創痍の俺たちを往復する。
エリーナ「まさか、本当にあの群れを正面から……いえ、今はそれより手当てが先です! すぐに教会の治癒士を……!」
アル「手当ては、後でいい。……まずは、俺たちの労働の対価を頼む」
アルが血の滲む唇で笑って見せると、エリーナは息を呑み、そして深々と頭を下げた。
エリーナ「……畏まりました。オーク・チーフテンおよび群れの討伐、確かに確認いたしました。素晴らしい戦果です」
エリーナは急ぎ奥の金庫へ向かい、ずっしりと重い皮袋をカウンターに置いた。
銀貨25枚。Cランク昇格の足掛かりとなる、確かな勝利の証だ。
アル「……よし。みんな、受け取れ」
ギルドの片隅のベンチに倒れ込むように座った仲間たちの前で、アルは袋の紐を解いた。
アル「今回は消耗も激しかったし、薬草や包帯、装備の修繕費も必要になる。だから、個人の取り分は銀貨1枚ずつだ。残りの銀貨19枚は、家の購入に向けた共通資金に入れる。これで文句はないな?」
ガンテツ「ガハハ……文句があるわきゃねえ。あのチーフテンの頭をカチ割った感触だけで、最高の酒が飲めるってもんだ」
ミラ「包帯代には十分すぎるよ。……アンタも、自分の腕の傷にちゃんとした薬を塗りな」
ザイン「不条理です……! この法衣の汚れを落とす石鹸代としては少々心許ないですが、神は貧しき者にも平等に試練を与え給う……」
フィオ「えへへ……アル君、ありがとう……ボク、これで甘いお菓子、買う……」
銀貨を握りしめ、フィオが安心したようにガンテツの膝の上で完全に眠りに落ちた。
全員の手に行き渡った銀貨の冷たい感触が、俺たちが生き残ったという絶対的な事実を証明していた。
サイドストーリー:確かな手応え
達成感と安堵が、張り詰めていた緊張の糸をぷつりと切った。
アルの視界が急にぐらりと揺れ、膝から力が抜ける。
「アル!」
ミラの叫び声が遠く聞こえ、俺の意識はカランドラギルドの硬い床に沈んでいった。だが、その顔には、確かな満足の笑みが浮かんでいた。




