森の死闘と、泥まみれの凱歌
森の奥深く、開けた広場に差し掛かった瞬間、空気が獣の脂と血の臭いに染まった。
「ブモォォォォッ!!」
木々を震わせる咆哮と共に姿を現したのは、粗悪だが分厚い鉄鎧を着込んだ「オーク・チーフテン」と、彼に統率されて盾の陣形を組む十数体のオークたちだった。
アル「陣形を崩すぞ! ガンテツ、正面から叩き割れ!」
ガンテツ「ガハハ! 任せろォ!」
ガンテツがウォーハンマーを振りかぶり、敵の盾陣に突っ込む。鉄と木が砕ける爆音が響くが、オークたちはチーフテンの怒号によって怯むことなく陣を詰め、ガンテツを押し返してきた。
チーフテンが巨大な戦斧を振り下ろす。ガンテツが大盾で受けるが、その圧倒的な膂力に膝が深く沈み込み、彼の手首から鈍い音が鳴った。
ガンテツ「ぐぅっ……! さすがに、ただのオークとは重さが違うわい……!」
アル「ガンテツ!」
カバーに入ったアルも、槍の石突で敵の兜を叩き割るが、背後から迫った別個体の剣がアルの腕を浅く切り裂いた。鮮血が散る。単なる力押しでは通用しない、数の暴力と統率された戦術が俺たちを削り始めていた。
ミラ「チッ、数が多すぎる! セシル、あの群れの真ん中を吹き飛ばしな!」
セシル「はぁっ、はぁっ……分かってる! 炎よ、焼き尽くせ!!」
セシルが息を切らしながら放った炎球がオークの群れを焦がし、ミラがその隙間を縫ってアーマーピックで装甲の隙間を的確に抉っていく。だが、彼女たちの体力と魔力もすでに限界に近かった。
「……おお、神よ! 癒やしの光を! 防壁の加護を!」
後方では、ザインがいつもの軽口を叩く余裕すら失い、血走った目で回復と防御の魔法を絶え間なく唱え続けていた。彼の純白の法衣は、前衛から飛び散る泥とオークの返り血で無惨に汚れ切っているが、彼はそれを気にするそぶりすら見せない。
その横で、フィオが喉から血の味がするほど声を張り上げ、味方を鼓舞する歌を紡ぎ続けていた。
フィオ「♪~ボクらの、足は止まらない! ハンマーよ、巨人を穿て……っ!」
声がかすれ、倒れそうになるフィオをセシルが支える。後衛の全力のバックアップが、前衛の命をギリギリのところで繋ぎ止めていた。
アル「……これで、終わりだッ!」
ザインの回復魔法で腕の痛みを散らしたアルが、チーフテンの戦斧を槍の柄で逸らし、懐へ潜り込む。そして、渾身の力で石突の錘をチーフテンの膝裏の関節へと叩き込んだ。
鈍い音と共にチーフテンが膝をつく。その巨体が沈み込んだ瞬間、ガンテツが痛む手首を気合いで固定し、天空からウォーハンマーを振り下ろした。
ガンテツ「潰れろォォォッ!!」
チーフテンの兜ごと頭部が粉砕され、指揮官を失った残りのオークたちは恐れをなして森の奥へと蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
サイドストーリー:満身創痍の勝利
戦闘が終わり、静寂が戻った森の広場。
ガンテツはハンマーを杖代わりにしながらその場に座り込み、アルも肩で息をしながら槍を地に突き立てた。腕の切り傷からはまだ少し血が滲んでいる。
アル「……はぁ、はぁ。さすがに、堪えたな」
ガンテツ「ガハハ……笑えねえくらい、きつかったぜ……」
後衛組はさらに悲惨だった。魔力を使い果たしたセシルは木に寄りかかってぐったりとし、フィオは喉をさすりながら声も出せずに座り込んでいる。
そしてザインは、血と泥と脂にまみれた法衣のまま、大の字になって天を仰いでいた。
ザイン「……はぁ、はぁ……不条理です。神はなぜ、私にこれほどの過酷な試練を……しかし、誰も欠けることなく試練を乗り越えられたことは、称賛に値します……」
ミラがふらつく足取りでザインのそばに歩み寄り、彼に水筒を投げ渡した。
ミラ「……よくやったよ、エセ神官。アンタの回復がなきゃ、前衛は潰れてた」
ザインは水筒を弱々しく受け取り、「エセではありません」と掠れた声で呟いて、小さく笑った。
全員がボロボロの満身創痍。しかし、その顔に後悔はなく、強敵を打ち破った確かな達成感と結束が、泥まみれのパーティを一つに結びつけていた。




