おかえりなさい、空っぽの英雄たち
一週間以上もの沈黙を破り、砂埃にまみれた俺たちが『赤猫亭』の扉を潜った瞬間、食堂の喧騒がぴたりと止まった。そして、厨房からお玉を手にした女主人・マーサが、雷のような勢いで飛んできた。
マーサ「ちょっと! アル、みんな! 一体どこまで行ってたのさ! 全然帰ってこないから心配で夜も眠れなかったよ!」
腰に手を当て、本気で怒鳴りつけてくるマーサ。だが、その瞳の奥には安堵の涙が浮かんでいる。
アル「悪いなマーサさん、心配かけた。……いやあ、意気込んで『嘆きの荒野』の奥まで行ってみたんだが、これがまるっきりハズレでさ」
アルはあえて大袈裟に肩を落とし、空っぽの荷袋をひっくり返して見せた。
アル「お宝どころか、見渡す限りの砂と石ころだけ。おまけに崩落に巻き込まれて、新調したマントはボロボロ、ザインの法衣なんて清掃人形……じゃなかった、トゲトゲの草に絡まってこの有り様さ。収穫なしの、完全な大赤字だよ!」
ミラ「全くだよ。あんな不毛な場所、二度と行きたくないね」
俺たちが代わる代わる「無駄足だった」と笑い話にすると、食堂にいた他の冒険者たちからもドッと笑い声が上がった。
「あの『嘆きの荒野』に夢を見すぎるからだ!」「無事で戻っただけでも儲けもんと思え!」と、野次が飛ぶ。
マーサ「……ふん、全く呆れた連中だよ。まあいいさ、アンタたちが生きてるなら、アタシの心配も無駄足だったってことだ。ほら、冷める前に座りな! 今日は特別に、温かいシチューを多めに盛ってあげるからね!」
マーサは毒づきながらも、どこか嬉しそうに厨房へ戻っていった。
俺たちは互いに顔を見合わせ、悟られないように小さく、悪戯が成功した子供のように笑った。この街の誰も、俺たちが「王様の箱庭」の構造図を懐に忍ばせていることなど、夢にも思っていない。
サイドストーリー:100万リアへの誓い
部屋に戻り、配られた熱いシチューを啜りながら、アルは改めて資金の確認を始めた。
アル「拠点となるあの家、金貨1枚だったよな。今の俺たちの全財産を合わせても、まだ半分ちょっとか」
セシル「そうだね。今回、物理的なお宝は持ち帰れなかったけど……あの遺跡が『未発見』であることが確定したのは大きい。あそこを攻略すれば、金貨1枚なんて端金に思えるほどの富が眠っているはずだよ」
ザイン「不条理ですが、あの『汚れ』を落としてくれた遺跡に免じて、あそこを私たちの庭にするための労働には付き合いましょう。ただし、次に行くときはもっと丈夫な法衣を新調してからにしてくださいよ」
アルは、窓から見えるカランドラの夜景を見つめた。
ただの農夫だった俺が、100万リアという大金を夢見ている。そして、それを笑わずに共有してくれる仲間がいる。
遺跡という「秘密の箱庭」を自分たちのものにするため、俺たちの本当の快進撃はここから始まるのだ。




