退路なき野営、前を向くための晩餐
完全に塞がってしまった天井の大穴を見上げ、数分間の沈黙が落ちた後。アルは手にしていた飛竜骨の槍をドンッと床に突き立て、全員の視線を集めた。
アル「……よし、状況は最悪に近いが、誰も死んでない。ポジティブに考えようぜ」
その力強い声に、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
アル「今日はこれ以上進まない。この広間は壁が頑丈そうだ、ここで野営を張る。ガンテツ、入り口のバリケード作りを頼む。ミラとセシルは周辺の安全確認、フィオは……ザインを少し慰めてやってくれ」
指示が飛ぶと、パーティはすぐに自分たちの役割を果たし始めた。退路が断たれたという絶望的な状況下であっても、今の彼らにはパニックを起こすような脆さは微塵もなかった。
やがて焚き火が焚かれ、ガンテツが荷袋から大量の干し肉と乾燥豆を取り出す。貴重な水を少しだけ使い、ミラが持参したハーブで濃い味付けのスープを作り上げた。
ミラ「……ほら、食いな。退路がないなら、前を向いて進むしかないんだ。腹が減ってちゃ絶望もできないよ」
アル「美味いな……。セシル、地図はどうだ?」
温かいスープを啜りながら、アルは広げられた構造図を覗き込んだ。セシルは火の光を頼りに、地図の第二層部分を指し示す。
セシル「第一層への階段はあの通り完全に潰れたけど……これだけの大規模な居住区画だ、必ず別の脱出ルートや、地上へ直通する『転移陣』のような設備があるはずだよ。王族が緊急時に逃げ道を用意しないわけがないからね」
アル「なるほどな。お宝を探すついでに、王様の非常口を見つければいいってわけだ。……ガンテツ、悪いが俺の分の干し肉も少し分けてくれ。明日から、もっと力が必要になりそうだからな」
ガンテツ「ガハハ! 任せておけ! 腹一杯食って、明日もガンガン突き進むぞ!」
絶望的な地下深くでの野営。しかし、焚き火を囲む仲間たちの顔には、確かな信頼と、明日への闘志が燃え上がっていた。
サイドストーリー:泥に塗れた聖職者と子守唄
ザインは焚き火の端で、泥と埃で茶色く染まった法衣を恨めしそうに撫でていた。
ザイン「……おお、神よ。この穢れきった姿で、どうして明日からの試練に立ち向かえと言うのですか。不条理、あまりにも不条理です……」
フィオ「やあやあザイン、そんなに落ち込まないで! 泥んこ遊びしたみたいで、ちょっと親しみやすくなったよ?」
ザイン「エルフ! 聖職者を泥んこ遊びの子供と同列に語るなど……!」
怒ろうとしたザインだが、フィオがスッと差し出した水筒と、綺麗に拭かれた硬焼きパンを見て口をつぐんだ。
フィオ「はい、これ。お水は少ししかないけど、顔だけでも拭いてね。それから……♪~暗い穴底、星は見えずとも、ボクらの心に火は灯る~」
フィオが静かにリュートを爪弾き、優しい子守唄を歌い始める。その旋律は地下の冷気を和らげ、極限状態にある仲間たちの神経をゆっくりと解きほぐしていった。
ザインは小さくため息をつき、渡された水で顔の泥を拭いながら、静かに神への(そして仲間への)感謝の祈りを捧げた。




