偽りの安全路と、奈落への足音
管理室で見つけた構造図は、確かに本物だった。
セシルの先導に従い、僕たちは発光する苔の裏に隠された秘密の通路を次々と抜けていく。構造図に記された「安全ルート」を通ることで、徘徊する植物の怪物や、厄介な魔導矢の罠を完全に回避することができていた。
セシル「……すごい。このルートなら、あと少しで第二層へ続く大階段に出られるよ」
順調すぎるほどの進軍。しかし、数百年の歳月がもたらした「風化」、そして数時間前に僕たちの頭上を通過した「サンドワームの地響き」が、この遺跡の脆い部分を確実に蝕んでいたことを、僕たちは失念していた。
「安全ルート」の最後、長い石造りの連絡橋の中腹に差し掛かった時のことだ。
ピキッ……という嫌な音が足元から響いた。
ミラ「……嘘だろ。アル、走れ!! 床が抜ける!!」
ミラの悲鳴に近い声と同時、僕たちの足元の石橋が、凄まじい轟音と共に崩落を始めた。構造図には載っていない、完全な経年劣化による物理的な崩壊だ。
「うわあああっ!?」
床がすり鉢状に砕け、僕たちは真っ逆さまに下の階層へと投げ出された。
アル「ガンテツ! 上からの瓦礫を頼む!!」
ガンテツ「任せろォ!!」
空中でガンテツが大盾を頭上に構え、降り注ぐ巨大な石の塊を次々と弾き飛ばす。アルは飛竜骨の槍を崩れゆく壁に突き立てて落下速度を殺し、ミラとセシルが体勢を崩したフィオとザインを空中で掴み寄せた。
凄まじい土煙と共に、僕たちは第二層の冷たい石の床へと叩きつけられた。
全員がむせ返りながらも立ち上がると、見上げた先には完全に塞がってしまった第一層への穴があった。退路が断たれた瞬間だった。
アル「……みんな、無事か!?」
セシル「ゲホッ……僕は平気だ。ごめん、アル。数百年前の地図を過信しすぎた……」
土埃に塗れたセシルが悔しそうに顔を歪めるが、アルは彼の肩をポンと叩いた。
アル「気にするな。落ちた先が針の山じゃなかっただけでも、地図のおかげだ。それに、怪我人が出なかったのは全員の連携が上手くいった証拠だろ」
立ち上がった僕たちの目の前には、植物に覆われた第一層とは全く異なる、大理石と冷たい金属で構成された「第二層」の荘厳な扉が待ち構えていた。
サイドストーリー
土煙が晴れた後、ザインがかつてないほどの悲鳴を上げた。
ザイン「おおおおお、神よ!! なんという不条理!! 私の、私の純白の法衣が……!!」
落下と土煙により、ザインの自慢の法衣は完全に茶色に染まり、スラムの浮浪者と見紛うほどの有様になっていた。
ミラ「うるさいね、生きてるだけマシだろ。……チッ、でも確かにこの埃は最悪だ」
フィオ「ケホッケホッ……ザイン、あとでお水少し分けてあげるから、顔だけでも洗おうね」
ザインが絶望のあまり膝から崩れ落ちる横で、ガンテツは「腹が減っては戦ができん!」と、さっそくマントに包んでいた干し肉の無事を確認し、豪快に笑っていた。退路を断たれてもなお、このパーティの芯の強さは少しも揺らいでいなかった。




