陽の当たる裏通り、灰の味がしない飯
「ほら、さっさと歩きな。置いていくよ」
夕暮れ時、宿でゴロゴロしていた俺たちは、ミラに引っ張られるようにしてカランドラの裏通りへと連れ出された。彼女の「アタシの過去の清算に付き合ってくれたお礼」という突然の提案に、仲間たちは驚きながらも喜んでついていった。
入り組んだ路地裏、一般の冒険者なら決して近づかないような治安の悪いエリアを、ミラは迷いなく進んでいく。やがて彼女が立ち止まったのは、看板すらない半地下の古びた食堂だった。
店に入ると、カウンターの奥で鍋をかき混ぜていた隻眼の老婆が、訝しげにこちらを睨んだ。
老婆「……なんだい。珍しいね。今日は随分と……騒がしい連中を連れてきたじゃないか」
ミラ「悪いね、婆さん。今日はアタシの奢りだ。こいつらの腹がはち切れるくらい、一番美味い肉とシチューを出してやってよ」
運ばれてきたのは、強烈なスパイスの香りがする岩鳥の串焼きと、見た目は黒いがとろけるようなスジ肉のシチューだった。
ガンテツ「ガハハ! こいつはたまらん! 強い酒に最高に合う味付けだわい!」
セシル「……すごい。いくつかの香草は毒消しの効果もある。裏通りならではの、生き抜くための知恵が詰まった料理だね」
ザイン「ふん、このような衛生観念の欠如した店など不条理……おおっ!? なんですかこのシチューは! 神の奇跡がこの小鍋の中に凝縮されているとでも言うのですか!」
仲間たちが大騒ぎしながら食事を楽しむ中、ミラはアルの隣に座り、串焼きを静かにかじっていた。
ミラ「……アタシさ、昔からこの店に通ってたんだ。組織の汚れ仕事が終わった後、血の匂いを消すために、ここのスパイスの強い肉を無理やり胃に詰め込んでた」
彼女の横顔は、薄暗いランプの光に照らされて、どこか穏やかだった。
ミラ「でも、どんなに美味いって評判の肉も、一人で食ってるといつも『灰の味』しかしない気がしてたんだ。……だけど、今日は違う。ちゃんと肉の味がする。笑えるだろ?」
アル「……ああ。すごく美味いよ、ミラ」
ミラ「……ありがとね、アル。アタシを、日向に連れ出してくれてさ」
ミラはそう言うと、かつての冷たい暗殺者の顔ではなく、年相応の少女のような、少し照れたような柔らかい笑顔を見せた。裏通りの隠れ家には、いつまでも仲間たちの笑い声が響いていた。
サイドストーリー
老婆はカウンターの中から、大騒ぎするアルたちを呆れたように見ていた。
老婆「……まったく、裏通りの店でこんなに大声で笑うバカどもは初めてだよ。だが……」
老婆はミラの背中を見つめ、ふっと口元を綻ばせた。
老婆「……あの子が、あんな顔で笑うようになるとはね。あんたたち、あの子のこと、これからも頼んだよ」
フィオはすっかりこの店が気に入り、老婆にリュートの弾き語りをプレゼントしようとしたが、「うるさいよ、耳が腐る!」と怒られ、しょんぼりしながらもシチューをおかわりしていた。




