影の払拭、真なる自由の祝杯
アルの怪我が癒え、なんとか起き上がれるようになった三日後の夜。
『赤猫亭』の広間に、チャックがやってきた。彼はアルの包帯が巻かれた肩を見て軽く笑うと、テーブルにどっかりと腰を下ろした。
チャック「おう、だいぶ顔色が良くなったじゃねえか。……いい知らせを持ってきたぜ。カランドラ周辺に潜んでいた組織の『ネズミ』どもだが、完全に尻尾を巻いて逃げていった。バルトロがやられたことで、これ以上手出しするのは割に合わないと判断したんだろうな」
その言葉を聞いた瞬間、隣に座っていたミラが、小さく息を吐き出して目を伏せた。
今まで彼女を縛り付けていた、重く冷たい見えない鎖が、ついに音を立てて崩れ去ったのだ。
アル「……そうか。じゃあ、これで本当に……」
チャック「あぁ。ミラの嬢ちゃんは、晴れて『ただの冒険者』ってわけだ。……マーサ! こいつらのテーブルに、一番いいエールと肉を頼む! 今日は俺の奢りだ!」
チャックの威勢のいい声で、ミラの「真の自由」を祝うささやかな祝賀会が始まった。
アルはまだ強い酒を止められているため果実水だったが、皆と一緒にグラスを高々と掲げた。
ガンテツ「ガハハ! ミラの嬢ちゃん、これからはコソコソ隠れる必要はねえ! 堂々と日向を歩いて、わしの後ろで短剣を振り回せばいいわい!」
セシル「……うん。ミラの過去がどうであれ、僕たちにとっては最高の仲間だからね」
仲間たちからの温かい言葉に、ミラは照れくさそうに顔を赤らめ、そっぽを向いた。
ミラ「……チッ、どいつもこいつも大袈裟なんだよ。アタシはただ、アンタたちみたいな馬鹿な連中といる方が、少しだけマシだって思っただけさ。……でも、まあ……悪くないね、こういうのも」
ミラはそう言って、初めて心からの無邪気な笑顔を見せ、グラスのエールを飲み干した。その笑顔は、スラムで生きるために作っていた作り笑いでも、暗殺者としての冷たい笑みでもない、一人の少女としての本当の笑顔だった。
サイドストーリー
宴会の席で、ザインは「不条理なほど美味いですね、この肉は!」とチャックの奢りを存分に堪能していた。
ザイン「それにしても、チャック殿は気前がいい。神の教えにも通じるその施しの精神、素晴らしいです。……ところで、私の新しい法衣の代金などは……?」
チャック「調子に乗るなよ、似非神官。お前は水でも飲んでろ」
フィオはご機嫌にリュートを弾きながら、新しい歌を披露している。
フィオ「♪~影は消え去り、月は輝く! ボクらの可愛いお姉ちゃん、ようこそ光の当たる場所へ!」
アルは肩の痛みを微かに感じながらも、賑やかな仲間たちの輪を眺め、チャックと軽くグラスを合わせた。
アル「チャックさん、今回は本当に……何から何まで、ありがとうございました」
チャック「へっ。言ったろ、貸しだってな。お前らがCランクに上がったら、たっぷりこき使ってやるから覚悟しとけよ」




