ささやかな祝宴と柔らかなベッド
すっかり日の落ちた街を歩き、俺たちは定宿である『赤猫亭』の扉を開けた。
夕食時で賑わう食堂の中は、肉の焼ける匂いとエールの香ばしい匂いが充満しており、空腹の胃袋を容赦なく刺激してくる。
アル「マーサ! 今日は水で薄めたスープじゃねぇぞ。まともな肉とエールを頼む!」
俺が大声を上げると、厨房の奥から女将のマーサが大きな鍋をかき混ぜながら顔を出した。
マーサ「おかえり! おや、随分と景気がいいね、アル。ちゃんと稼いできたってわけかい? よしよし、今日はアタシの特製肉込みシチューと、石じゃない柔らかいパンを出してやるよ!」
ガンテツ「ガハハ! ドブさらいの報酬だがな! 腹に入れば同じ肉と酒だ! さっさとエールを樽ごと持ってきてくれ!」
俺たちはテーブルに陣取り、それぞれの取り分から大銅貨1枚ずつを出し合って、まともな夕食と今夜のベッド代を支払った。
久しぶりに口にする温かい肉の味に、自然と顔がほころぶ。
セシル「……需要と供給だね。僕たちが大銅貨を払えば、マーサさんはまともな食事と安全な寝床を提供する。実に健全な取引だ。……ああ、硬い床で寝なくて済むのが一番嬉しいよ」
ザイン「おやおや、私はこの不浄なるネズミの匂いを洗い流すのが先ですよ……。ですが、神の恵みであるワインと肉は、冷めないうちに頂きましょう。これも立派な功徳ですからね」
ミラ「……ベッド代と飯代でまた金が飛ぶね。でも、たまには屋根裏のネズミを気にせず寝たいし、今日くらいは贅沢してやるか」
ミラは少し不満げに呟きながらも、自分の分のシチューをあっという間に平らげていった。
どん底から始まった一日だったが、終わり良ければ全て良し。俺たちのささやかな祝宴は、夜遅くまで続いた。
サイドストーリー
食事の後、ザインはワインのおかわりを頼もうとマーサに擦り寄っていた。
ザイン「おや、マーサさん。今日のシチューはまさに神の奇跡と呼ぶにふさわしい美味でした。この感動に免じて、もう一杯だけワインをツケで……」
マーサ「こらザイン! ツケが溜まってるの忘れたとは言わせないよ! 今日の稼ぎから少しでも返しな! 払えないなら皿洗い百枚の刑だよ!」
ザイン「ひっ!? わ、分かりましたよ! 神の使いに向かってなんという暴挙……!」
ザインが慌てて小銭を差し出す姿を見て、食堂のあちこちから常連たちの笑い声が上がった。
騒がしくも温かい、いつもの赤猫亭の夜だった。




