月下の死線、届いた槍と流れた血
「死ね、出来損ないがぁ!」
バルトロがバルコニーから鳥のように舞い降りた。その速度は、これまでアルたちが戦ってきた魔物の比ではない。月光を反射する二振りの湾曲刀が、銀色の弧を描いてアルたちの陣形に切り込む。
ガンテツ「ぬおおおっ!?」
ガンテツが反射的に大盾を構えるが、バルトロは盾に触れる直前で不自然に加速し、その巨体を軽々と飛び越えた。狙いは後方のミラだ。
ミラ「……っ!」
ミラが短剣で受けるが、重く鋭い斬撃に膝が折れかける。バルトロの動きは「影」そのものだった。セシルの風魔法を紙一重でかわし、フィオの歌による阻害すらも殺気で押し殺す。
バルトロ「出来損ない! この程度で!この!俺が!止められると思ったのか!あ!?」
バルトロの左手の刀が、防御を崩されたミラの喉元へ向けて吸い込まれるように突き出された。ミラの瞳に死の予感が過る。
アル「ミラ!!」
その瞬間、アルの体が思考より先に動いた。新調した行軍長靴が土を爆ぜさせ、飛竜骨の槍をバルトロの脇腹へ向けて突き出す――と見せかけ、自らの体をミラの前へと割り込ませた。
ギィィィン!! という嫌な音と共に、バルトロの湾曲刀がアルの肩口を深く切り裂いた。
アル「……ぐあぁっ!!」
ミラ「アル!? どうして……!」
鮮血が舞い、アルの肩から腕にかけて真っ赤な線が走る。だが、アルは痛みに悶える代わりに、残った力で槍の石突きを地面に叩きつけ、バルトロの足元を強引に払った。
アル「今だ……ミラ! 」
アルの負傷と引き換えに、バルトロの完璧な連撃が初めて途絶えた。暗殺者ゆえに攻撃特化で打たれ弱いバルトロの懐に、今、最大かつ唯一の隙が生まれる。アルが流した血は、ミラが過去の呪縛を断ち切るための、唯一の勝機を作り出していた。
サイドストーリー
後方でザインが絶叫に近い声を上げた。
ザイン「アル殿ぉぉ!! 不条理です! 私の救った命が、このような薄汚い暗殺者の刃で損なわれるなど! セシル殿、早く援護を! フィオ殿、もっと勇ましい歌を!」
ザインは震える手で聖水瓶を構え、アルの傷を癒やすための祈りを捧げ始めた。セシルの杖が青白く光り、バルトロの逃げ場を塞ぐための重圧を放つ。
フィオ「♪~折れない翼、勇者の盾! 仲間のために流した血を、勝利の滴に変えてみせて!!」
フィオの歌声が、痛みに意識が遠のきかけるアルの心に熱い火を灯した。バルトロは初めて焦りの表情を浮かべ、態勢を立て直そうと跳躍しようとするが、その着地地点にはすでにミラの鋭い視線が突き刺さっていた。




