初夏の風と、英雄の休息
連戦の疲れを癒やすべく、俺たちは今日一日を「完全休養日」とした。昼過ぎまで泥のように眠り、久しぶりに清潔な平服に着替えてギルドへ顔を出すと、そこには大量の荷物に囲まれて頭を抱えるエリーナの姿があった。
エリーナ「あ、アルさん! ちょうどいいところに! ……いえ、お休みだって分かっているんですけど、少しだけ手を貸してもらえませんか?」
聞けば、数日後に迫ったカランドラの恒例行事『初夏の祭典』の準備が、例年以上の人出予想でパンクしかけているらしい。俺たちは顔を見合わせ、苦笑いしながらも手伝いを買って出た。
アルとガンテツは、持ち前の筋力を活かして祭壇用の巨大な木材や、広場に並べる屋台の資材を次々と運び込んでいく。
「おい、あいつらを見ろよ。北方遠征の英雄様だろ?」「あんな重い荷物を軽々と……さすがだな!」
作業中、街の人々から次々と声をかけられる。これまでは「農夫上がりの新米」として見られることが多かったが、今は確かな敬意が混じっているのを感じ、アルは少し照れくさそうに、だが誇らしげに汗を拭った。
一方、セシルとフィオは広場の装飾を担当。セシルの精密な魔法で高い場所に飾りを固定し、フィオがエルフの感性で色鮮やかな布や花を配置していく。その美しさに、通りかかる子供たちが歓声を上げた。
ミラは持ち前の身軽さで屋根の上に登り、祭りの提灯を吊るし、ザインは「不条理な奉仕活動です」とぼやきながらも、清浄な祈りを込めた祭事用の小道具を丁寧に磨き上げていた。
夕暮れ時、準備が一段落すると、エリーナが冷えた果実水を持ってきてくれた。
エリーナ「本当に助かりました! 皆さんのおかげで予定よりずっと早く終わりましたよ。街の人たちも、皆さんのことを本当に頼りにしているんですから」
夕日に染まるカランドラの広場で、自分たちが守った街の平穏を噛み締める。ただ戦うだけではない、この街の一員として受け入れられている実感が、俺たちの心に新たな活力を与えてくれた。
サイドストーリー
作業の後、アルとエリーナは少しだけ二人で歩いた。
エリーナ「アルさん、あの……北の遠征から帰ってきたとき、門の前で倒れたって聞いて、私、本当に心配で……。でも、こうして元気な姿を見られて、今はすごく嬉しいです」
アル「……心配かけたな。でも、仲間の支えがあったから帰ってこれた」
アルの言葉に、エリーナは顔を赤らめて俯いたが、すぐに顔を上げて微笑んだ。
エリーナ「……期待していますよ。祭りの夜、皆さんと一緒においしいエールが飲めるのを」
一方、宿ではガンテツが「筋肉の使いすぎで腹が減ったわい!」と豪快に笑いながら、マーサの特製シチューをお代わりしていた。ザインは「私の清らかな法衣が、祭りの準備の埃で……」と嘆きつつも、街の人からお礼に貰った高級な菓子を、ミラに奪われないよう大事に抱え込んでいた。




