生存への投資、古物商の審美眼
朝食の席で、セシルが真剣な表情で羊皮紙のメモをテーブルに広げた。そこには、現在のパーティの資金状況と、各メンバーの装備の損耗具合が詳細に書き出されていた。
セシル「……アル、昨日の『堅実にいく』という方針には僕も完全に賛成だ。だからこそ、提案があるんだ。パーティの資金から銀貨15枚出して、全員の装備を一新、あるいは大幅に強化したい」
アル「銀貨15枚……」
セシル「目標からは一度遠ざかることになる。でも、昨日の北の森で、ガンテツの大盾は限界寸前だったし、アルの槍の柄にもヒビが入っている。僕たちの防具もボロボロだ。このままじゃ、Dランクの依頼でも思わぬ事故が起きかねない。『死なずに稼ぐ』ための、これは必要な先行投資だと思う」
セシルの論理的で冷静な提案に、アルは少しだけ顎を撫でて考え込んだが、すぐに力強く頷いた。
アル「……わかった。セシルの言う通りだ。命があってこその目標だからな。よし、今日はゴードンのおっさんの店へ行って、使える『掘り出し物』を見繕ってもらうぞ!」
昼前、俺たちは馴染みの古物商兼よろず屋『片目鴉の店』へと向かった。
カウンターの奥で骨董品を磨いていた初老の店主ゴードンは、俺たちの顔を見るなり不機嫌そうに鼻を鳴らした。
ゴードン「ゴミを持ち込むなと何度言えばわかる。……チッ、今日は何を売りつけに来た、坊主。言っておくが、北の森で拾ったようなガラクタなら銅貨1枚にもならねぇぞ」
アル「今日は売りじゃなくて買いだ、おっさん。銀貨15枚分、俺たち全員の装備をまともなもんに変えたい」
その金額を聞いた瞬間、ゴードンの右目に嵌まった鑑定用ルーペがギラリと光った。
ゴードン「……へっ。北の森で大立ち回りをしたって噂は本当らしいな。銀貨15枚……悪くねぇ額だが、オレの店にある一級品を揃えるにはまだ足りねぇな。だが……」
ゴードンは杖をつきながら立ち上がり、店の奥の頑丈な木箱を開け始めた。
ゴードン「そこの鉄クズ(ひしゃげた盾)を補強する『魔導金属の装甲板』と、坊主の槍の代わりになる『飛竜の骨材の長槍』なら譲ってやってもいい。眼鏡には、帝国軍の魔術兵が使っていた『戦術魔石の短杖』だ。ナマクラなガラクタよりはマシに立ち回れるだろうよ」
ミラ「……アタシの分は?」
ゴードン「こそ泥には、音の鳴らねぇ『暗殺者用の特注革鎧』と、重心の狂ってねぇ投げナイフのセットだ。これで全額だ。……オレの審美眼に狂いはねぇ、感謝して持っていきな」
偏屈で口は悪いが、ゴードンが選んだ武具はどれも、新品以上に実戦的で価値のある名品ばかりだった。俺たちはその確かな重みと手応えに、次なる冒険への静かな闘志を燃やしていた。
サイドストーリー
装備更新の最中、当然のようにザインとフィオも自分の要望を主張していた。
ザイン「おお! ゴードン殿、この不浄を弾くという『白銀糸の法衣』、素晴らしいではありませんか! なに? 銀貨2枚? ええい、アル殿! これを買わずして何の先行投資ですか! 詐欺師と呼ばれようと、私の清浄なる祈りが高まればパーティの生存率は飛躍的に向上するのですよ!」
ゴードン「うるせぇな詐欺師。お前にはそのシミだらけの法衣で十分だ。……だが、オマケで『純度の高い聖水瓶』くらいはつけてやる」
フィオ「やあやあ! おじさん、ボクの弓の弦と、可愛いクロークもお願い! 新品の弦なら、ボクの歌声も三割増しで魔物たちを魅了できちゃうよ! ♪〜頑固なおじさんに、感謝の投げキッス!」
ゴードン「エルフの嬢ちゃんのキッスなんぞ、銅貨半枚の価値もねぇ。大人しくしてな」
賑やかな買い物を終え、それぞれが新しい装備を身に着け、見違えるようにたくましい冒険者の顔つきになっていた。




