身の丈の境界線、次なる堅実な一歩
祝杯の翌日。俺たちは激戦の疲労を完全に抜くため、丸一日の休息を取ることにした。
昼下がり、『赤猫亭』の食堂の隅のテーブルに仲間たちを集め、温かいハーブティーを飲みながら、これからのパーティの方針について話し合いの場を持った。
アル「……皆、北の遠征は本当にお疲れ様だった。おかげで大金も手に入ったし、冒険者としての箔もついた。だが、昨日の祝杯の勢いで言うのもなんだが、少し冷静になりたい」
アルは手元のカップを見つめ、あの「脈動する蕾」と、狂乱する魔物の群れ、そしてチャックたちが負った深い傷を思い返した。
アル「チャックさんたちは『お前らはもうCランクの器だ』と言ってくれた。でも、俺たちの実感としてはどうだ? 防衛線を維持するだけで限界ギリギリで、誰か一人でも欠けたら全滅していた。あのレベルの戦いを『継続的』にこなせる力が、今の俺たちにあるとは思えない」
ガンテツ「……アルの言う通りだ。わしの大盾も、あのボアの突進をあと数回受けていたらへし折られていたかもしれん。Cランクの壁は、思っていた以上に厚く、硬かったわい」
ミラ「……チッ。悔しいけど同意するよ。一発の奇跡で勝てたからって、調子に乗って死んだ奴らを腐るほど見てきた。アタシらはまだ、チャックたちの背中を追いかけてる途中だ」
セシルも深く頷き、ザインすらも神妙な顔で同意した。
アル「俺たちの当面の目標は、『家』を手に入れることだ。全滅のリスクを背負って高ランクに挑み続けるより、今は無理をせず、俺たちの身の丈に合ったDランクの依頼を確実にこなして、装備や連携を少しずつ磨いていきたい。……みんな、それでいいか?」
「もちろん」「異議なし」と、それぞれの言葉で仲間たちが応える。
大きな成功を収めた直後だからこそ、浮き足立たずに自分たちの足元を見つめ直す。アルのその冷静な判断は、パーティの生存率を高め、仲間からの信頼をより一層盤石なものにした。
サイドストーリー
話し合いが一段落した後、それぞれが思い思いの休息に戻っていった。
ガンテツは宿の中庭で、激しい衝撃に耐え抜いた愛用の大盾の歪みを、ハンマーで丁寧に叩いて直している。
セシルは食堂に残り、今回の遠征で限界を超えて魔力を引き出した感覚を忘れないよう、羊皮紙に独自の「魔法陣の考察」を書き留めていた。アルは文字が読めないが、その図解を見ながら魔法の射線をどう確保するか、セシルと熱心に議論を交わした。
一方、ザインは宿の女将マーサに懇願して、自分の法衣を特別な香油で煮沸消毒させていた。
ザイン「……ええ、そうです。その角の汚れです! 豚の脂と不浄な瘴気が混ざった最悪の染みです! 神の使徒たる私の威厳が損なわれないよう、念入りに洗ってください!」
フィオ「やあやあ、ザインの服、なんだか薬草の匂いが強すぎて、魔物より先に人間が逃げ出しそうだよ! ほら、ボクが花の香りの歌で上書きしてあげよう!」
ザイン「やめなさいエルフ! 不条理な妖精の粉など振りまかれたら、私の清浄なる祈りが台無しになります!」
相変わらずの二人のやり取りに、アルたちは激戦のプレッシャーから解放された穏やかな午後を過ごした。




