境界線の向こう側、勇者の背中
「貫けえぇぇ!!」
チャックの咆哮が、森の静寂を切り裂いた。
剥き出しになった瘴気の核に対し、チャックのパーティが最後の総攻撃を仕掛ける。核は断末魔のように、赤黒い魔力の奔流を全方位に放出した。
その一撃は凄まじかった。チャックの仲間の魔術師が防護壁を展開するが、衝撃に耐えきれず結界が砕け散る。前衛の戦士が血を吐きながら吹き飛ばされ、チャック自身も肩の肉を深く抉られながら、執念で大剣を核へと叩き込んだ。
眩い閃光と共に核が粉砕される。その瞬間、これまで狂ったように防衛線を叩いていた魔物たちが、憑き物が落ちたように動きを止めた。彼らは怯えたような声を上げると、クモの子を散らすように森の奥へと逃げ去っていった。
……静寂が訪れる。
アルたちは、その場に崩れ落ちるように膝をついた。
アル(……これが、Cランクの世界か……)
目の前で繰り広げられたのは、自分たちがこれまで経験してきた「冒険」とは次元の違う、命の削り合いだった。チャックたちは重傷を負いながらも、誰一人として絶望せず、最後の一撃まで牙を研ぎ澄ませていた。
もし自分たちが核に挑んでいたら、全滅していただろう。アルは震える自分の手を見つめた。防衛線を維持するだけで精一杯だった自分たちと、限界を超えた一撃をねじ込んだ彼ら。その間には、高く険しい「壁」が確実に存在していた。
チャックが血に濡れた剣を杖代わりにし、ふらつきながらアルの元へ歩み寄ってきた。彼は深く抉られた肩を押さえ、苦痛に顔を歪めながらも、アルの肩を強く叩いた。
チャック「……へっ、情けねえツラすんな。お前らが後ろを完璧に守ってくれたから、俺たちは死ねたんだ……いや、勝てたんだよ。アル、お前らはもう、立派な冒険者だ。……カランドラへ、帰るぞ」
チャックのその言葉に、アルは堪えていた熱いものが込み上げてくるのを感じた。
サイドストーリー
チャックのパーティの負傷者を、ザインとセシルが必死に介抱していた。チャックの仲間の戦士は足の骨が折れ、魔術師は魔力枯渇で顔面が蒼白だ。
ザイン「……不条理です。これほどの名手がこれほどの傷を負うとは。神よ、私の残った祈りのすべてを彼らに捧げます……! セシル殿、止血の補佐を!」
セシル「……うん。僕たちの魔力も残り少ないけど、街まで持たせないと……」
ミラは武器を収め、遠ざかっていく魔物たちの足音を聞きながら、静かに空を仰いだ。
ミラ「……チッ。アタシら、死に物狂いでやってようやくこれかい。……あいつらの背中、思ってたよりずっとデカかったね」
フィオはボロボロになったリュートを抱きしめ、枯れた声で小さな鼻歌を歌いながら、仲間たちの無事を祝うように優しく微笑んでいた。




