咆哮する森、防衛線の死闘
チャックたちが蕾への総攻撃を開始した直後、森の空気が震えるほどの絶叫が響き渡った。それは蕾の断末魔か、あるいは防衛を命じる意思か。次の瞬間、獣道の奥から、瘴気に当てられ理性を失った魔物たちが文字通り「波」となって押し寄せてきた。
アル「……数が多い。今までの依頼とは、次元が違うぞ!」
今までは数匹、多くても十数匹の魔物を相手にしてきた。だが、目の前の光景は異様だ。ホーンウルフ、グレートボア、さらに大型のフォレストベアまでもが、互いを踏みつけながら狂乱状態で突っ込んでくる。
ガンテツ「ぬおおお! 押されるな! 踏ん張れアル!」
ガンテツの大盾が重低音を響かせてボアの突進を受け止めるが、その衝撃で彼の太い腕が痺れ、火花が散る。俺はスパイクを地面に深く食い込ませ、一歩も引かずに槍を突き出した。
アル「はぁ、はぁっ……! セシル、火力を落とすな! ミラ、漏れた奴を頼む!」
セシル「……わかってる! でも、キリがないよ……!」
セシルの風の刃が狼を切り裂くが、彼の顔からは既に滝のような汗が流れ、肩で息をしている。ザインもなりふり構わず聖水を振りまき、浄化の光で魔物たちの足を止めているが、その祈りの声は極限の疲労でかすれ始めていた。
戦闘開始から一時間。アルの腕は槍の重みに悲鳴を上げ、視界が汗で滲む。防具の隙間からは魔物の返り血が入り込み、呼吸をするたびに肺が焼けるような感覚に襲われる。
これほどまでの「数の暴力」に晒されたことはなかった。一人一人の技量では勝っているはずが、絶え間ない殺意の奔流に、俺達のスタミナは急速に底を突き始めていた。
サイドストーリー
防衛線の後方で、フィオは喉が張り裂けんばかりの声で歌い続けていた。
フィオ「♪~負けないで、みんなの足跡! ボクの歌が、君の力の最期の雫になる! 響け、命の旋律!!」
リュートを弾く指先からは血が滲んでいるが、彼女はそれを構わず、限界を超えて魔力を歌に乗せている。その歌声だけが、崩れそうになるアルたちの精神を辛うじて繋ぎ止めていた。
ザイン「おお、神よ……! 不条理です、このままでは私の高潔なる魂よりも先に、足腰が砕け散ってしまいます! ミラ! 早くその獣の首を撥ねなさい! 私の法衣に鼻息がかかっているではありませんか!」
ミラ「……チッ、うるさいね! 喋る余裕があるなら……もっと光らせなよ! アタシだって……もう足が上がらないんだから!」
ミラの動きからも、いつもの鋭さが失われつつあった。だが、背後からはチャックたちの「蕾」を削り取る激しい打撃音が響いている。彼らを信じて、アルたちは限界の先にある力を振り絞り、泥を噛むような思いで防衛線を維持し続けた。




