最深部の地勢と、防衛の鉄則
朝にカランドラを出立した俺たちは、一度目の遠征時よりも濃くなった瘴気を切り裂きながら、一日かけて森の深部へと潜り込んだ。道中、瘴気に当てられ理性を失った小規模な魔物の群れに何度か襲われたが、二つのパーティの合同戦力はそれを寄せ付けず、最短ルートで目的地へと到達した。
そして今、俺たちの目の前には、前回遠目から見たときよりも一層禍々しく、鼓動のように脈動を繰り返す『巨大な花の蕾』が鎮座している。
チャック「……よし、全員足を止めろ。ここからが勝負だ。アル、よく見ておけ。地形を味方につけねえ奴から死んでいく」
チャックは蕾を囲む開けた空間を指差した。蕾はすり鉢状の地形の中央にあり、周囲は三方を切り立った岩壁と、瘴気で腐りかけた巨木の群れに囲まれている。
チャック「幸い、魔物が押し寄せてくるルートは、あの南側の細い獣道一箇所に絞れる。アル、お前らはあの入り口を背にして陣を張れ。俺たちが蕾を叩き始めれば、おそらく……その衝撃と音、そして蕾が放つ断末魔の魔力に引き寄せられて、森中の魔物が狂ったようにここを目指してくる。お前たちが『最高に美味そうな囮』になるってわけだ」
アル「……入り口を塞げば、後ろから襲われる心配はないんですね」
チャック「その通りだ。防衛のコツは『耐える』ことじゃねえ。『いなす』ことだ。ガンテツの大盾で正面を受け止め、ミラが横から隙を突き、セシルの魔法で足を止めろ。ザイン、お前の浄化は魔物を怯ませる絶好の武器になる。一歩も引くな、だが力むな。俺たちが奴を仕留めるまでの辛抱だ」
狭い入り口を俺たちが塞ぎ、奥でチャックたちが蕾を叩く。シンプルだが、誰一人のミスも許されない過酷な陣形だ。
サイドストーリー
緊張感が漂う中、フィオはリュートの弦を弾き、音の反響を確かめていた。
フィオ「やあやあ、見てよ! このすり鉢状の地形、ボクの歌が最高に響き渡るステージじゃないか! 魔物たちも、ボクの鎮魂歌を聴きながらなら、安らかに土に帰れるってものだよ!」
ザイン「……フン、景気のいいことですね。ですがアル、今のチャック殿の言葉を聞きましたか? 『不条理に美味そうな囮』ですよ。神の使徒である私が、魔物どもの餌食になるなどあってはならないことです! 浄化の結界は全力で張りますが、アル、私の前に一歩も魔物を通さないと誓いなさい!」
ミラ「……チッ。うるさいね。囮になれば、それだけ敵の弱点も丸見えになるってことだよ。アタシにとっては、暗がりで獲物を待つよりよっぽど効率がいいね」
ミラの不敵な笑みに、アルも少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。




