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Story.27 出発

 ガイアとラドンは、それぞれ白いライオンとバイクに跨り、ラコスデント神殿から南の方向へ、できる限りの速さで草原を突き進む。

 ガイアの肩に乗った狐が、並走する二人にまとめて気配を完全に消す魔法をかけている。移動しながら長い時間、この高度な魔法を一瞬も途切れることなく維持していることは、本来であれば現実離れしている。つまり、セーアの根源であるケイに常識外れの魔力と技量があるということになるが、予想していた以上の精度に、巫女は内心舌を巻いていた。


「おい」

「何?」


 ラドンの方から声がかかり、ガイアが首を回してそちらを見る。


「……今更だが、あんた、あの幼馴染には会ってきたのか」


 ガイアは思わず両眉を上げた。意外だったのだ。この男は、本当に用事があるとき以外、人に声をかけない質である。明らかに、今この場に必須とされる会話ではなかったが、彼は問い掛けてきた。

 うっかり笑おうものなら不貞腐れて、二度と声をかけてくれなくなってしまう気がして、ガイアは寸でのところで堪える。考える素振りを見せて、喉の奥で唸ることで誤魔化す。


「会って来なかったわよ」

「良かったのか」

「だって帰ってきたら全部話せばいいじゃない。戦争になりかけたんだけど、私達の活躍で戦争は終結、あんたが寝てる間に色々あったのよーって」


 正直なところ、治療室の前を通ったときに、顔だけでも見て行こうか迷ったのだ。意識はなくても、眠る顔だけでも目に焼き付けていきたいと思った。だが、死ぬ事を前提としているかのような思考だと感じたので、未練たらしく顔を見てから出発するのはやめようと決めたのだ。


 ガニアント国も、〝妖精の杖〟の伝説は知っているだろうし(ほんの十八年前は同じひとつの国だったのだから)、祠が自分の国の領域にあると知れば、放置することはないだろう。貴重資料である手前、厳重に管理されている可能性だってある。だから戦いを避けて通ることはできないと思っているが――死ぬ気は全くないのだ。


「ぱっと祠に行って、ぱっと杖をとって、ぱっと帰ってくれば、すぐでしょ?」

「……そう上手くいけばいいがな」


 わざと気楽な物言いをしているのは、ラドンも察してくれているのだろう。強く否定はしてこなかったが、ガイアもそう上手くいけばいいな、くらいの気持ちだ。実際にはもっと苦労することくらい折り込んでいる。


 草原を進みながら、ガイアはラドンの腰にちらりと目をやる。彼が携えている刀には、柄頭や鞘に龍を模した彫り物が施されている。神殿に来て間もない頃に、一度見せてもらっていたが、随分年季の入った刀のようで、とても重量感のある太刀だった。神殿でも外でも、彼は刀を絶対に手放さず、必ず腰に帯びている。抜刀しているところは見た事がないが、もしかしたら戦いが頻発しているような地域から来たのかもしれない。結局本人は何も語らないので、あくまで憶測でしかない。


(ケイ婆様には、何か話してるのかしら)


 ケイはラドンを同行させると説明したときに、彼が「戦い慣れているようだ」と説明した。確かに、外見からして物々しいため、いかにも戦い慣れていますという風情であるが、ケイの言葉には外見だけでは滲ませることができない、確信めいたものを感じた。その内、自分にも話してくれればいいがと思っているが、下手に踏み込もうとすると全力で拒絶の構えに入る男だ。一筋縄ではいかないだろう。

 コミュニケーションオバケなクォーツと、つっけんどんな態度が目立つラドンを足して、二で割るくらいが丁度良さそうだ、と思って、微かに笑う。


(……クォーツ、大丈夫よね)


 もう命に別状はないと聞いているのだ。容体が急変するようなことはないだろう。だが、普段非常にうるさい分、ずっと静かに眠り続けている幼馴染は、大袈裟ではなく生気に乏しい。ホノオに掴まっている手に、知らず知らずのうちに力が籠る。死ななくても、彼がこのまま目を覚まさなかったらと思うと、ぞっとしない。クォーツは、少し抜けていて人懐っこくて、うるさいからこそ、クォーツなのだ。


「……おい」


 ラドンの低い声が聞こえ、顔を上げる。


「何よ?」


 もう一度ラドンを振り返ると、今度は前方に向けて顎でしゃくられる。

 示された方向を見やれば、ガイアもはっとした。進行方向に、グリフォンのマークが見える。ガニアント国の国旗だ。そして、ガニアント国軍の兵士たちが複数、低姿勢のまま静止している。半分ほどは、そこにいるにも関わらず気配を感じない。いるのに、何もいないように錯覚してしまう、といった感覚だ。だが、もう半分は確かにそこにいて、誤魔化し切れていないようである。頭はしっかりと隠れているのに尻が見えているようなものだ。恐らく、セーアがガイアたちにかけている、気配遮断の魔法と同じものを各々が使っているのだろうが、高度であるために上手く扱えていない者が多いらしい。透明人間になる魔法ではないため、周りのものの気配遮断が失敗してしまえば、そこにいる者たちも気配こそ感じずとも、丸見えだ。


(兵士の一部を南方面に配備してるってところかしら)


 魔力の強い者は南東に優先的に回されており、南方面には中から中の下の力を持つ者達で固めている印象である。遠方でも分かるほどに、大胆に気配遮断を失敗してしまうのは想定されていたのかが問題だ。これは、罠だろうか。もし、わざと気配遮断に失敗したように見せかけているだけなのだとしたら。ガニアント国特有の何かで、実はガイアやラドンは丸見えで、気付いていないふりをしているだけで誘っているのだとしたら。


 試しに、ガイアは魔力を溜める。打ち込むつもりはないが、わざと手元に破壊力を見て取れる強い光を灯らせてみた。だが、彼らは無反応で、警戒し続けているだけだ。


「罠では無さそうだ」


 ラドンがバイクを走らせながら頷いた。彼も同じことを考えていたようだ。


「ええ。ホノオ、このまま突っ切るわよ」

≪了解した≫

拙作をお読み頂きありがとうございます。

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