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Story.24 承諾

「あの……ケイ様」


 そっと挙手して、発した声。ケイだけでなく、ガイアも視線を向ける。閲覧席に座ったまま、目の前に沢山の本を開きっぱなしにしてぐったりとしていた、中年の男だ。疲れた顔をしながらも、ゆっくりと口を開く。


「俺達もね、最初は何を言い出すんだって思ったんですよ。ガイア様、開口一番に、『杖の本を探してるの』って仰るもんですから」


 どうして杖の本を探しているのかと問えば、戦争を止めるために〝妖精の杖〟がどこにあるのかを調べている、というのだから、度肝を抜かれた。だが、あまりに真剣な様子である巫女を、一笑に付すことなどできず。気が付けば手伝い始めていた。自分の持つ全ての知識をフル活用しながら、本に当たりを付けてどんどん調べた。


「こう、何て言うんですかね……毒されたっていうわけでもないんですけど。もし、戦争が止められるなら、それがいいんじゃないかとか、思っちゃうんですよ」

「儂もじゃな」


 突如、横から声が飛んだ。見れば、三ヶ月前の集会でも最初に、ガニアント国から接触があったのではと声を上げた、気難しい老爺・マターリだ。

 思いがけない相手が会話に加わって来て、中年の男は身を竦ませた。老爺には、それだけの威圧感があるのだ。


「ガニアント国は好かん。奴らは儂らパクスミール国民を裏切った。……だが、だから戦争をしたいかと言われれば……否じゃ。戦争は大小に限らず、命を奪う忌むべきもの。敵国も自国も、むやみやたらに命は捨てるもんじゃあない」


 ガニアント国は嫌いじゃがな、と念を押すように繰り返す。

 やがて、図書室に集まっている者たちが声を上げ始めた。


「戦争が始まっちまうなら、止める方法を見つけるだけよ! なぁ!」

「戦争を止められることに賭けたい!」

「大丈夫、こんなに資料を大量に読み込んだんだ! 絶対杖もあるって!」


 口々に叫ぶ彼らを見て、ケイはまた呆けてしまう。集会で、戦争が始まる話をしたときは、絶望に打ちひしがれた顔をしている者が多かった。もうだめだ、と泣き崩れる者さえいた。平和ボケした国に本格的に戦争を仕掛けて来るなんて、どう考えても負け戦だ、と最初から諦めている者もいた。だが、ここに来て、皆――希望を見つけたと言わんばかりに、ガイアと同じように目を輝かせているなんて、狡い話だ。


「お願いします、ケイ婆様」


 ガイアが、深く頭を下げる。


「もう場所は分かってるの。あるかもしれない〝妖精の杖〟を、取りに行かせてください」

「……」


 ケイが言葉を詰まらせていると、図書室にいる者が、次々にケイに向けて深く頭を下げた。お願いします、という声が、何処か遠くに聞こえる。


 視線を巡らせる。こんなにも多くの人々が、ガイアと共に一生懸命、頭を下げている。閲覧席に並ぶ本の数々は夥しい。本棚の方を見やるとすかすかで、残っている本の数を数えた方が早いほどだ。出ている本の全てに数多くの栞が挟まれており、ガイアから渡された紙以外に、情報をまとめようとしたのであろう紙も散乱している。そして、全て主人が話をしていたが、それぞれが従えている〝聖獣〟も、この図書室にいた。彼らも識字能力があるため、本を読むことはできる。一緒に調べ尽くしたようで、頭の本を積み上げたまま制止する薄桃色のパンダや、本の頁の間でくったりと伏している黄緑色のヒヨコなど、他にも沢山の〝聖獣〟が見えた。


 ガイアの背後に座っている純白のライオンは、頭は下げずにじっと大神官を見つめていた。迷いを振り切ることができた巫女の心を、そのまま体現したような姿であった。


 溜息を、吐いた。いつもよりも、ずっと長く。


「……今日中に、どのようにして〝妖精の杖〟を手に入れるか相談しましょう」


 ガイアには、人望がある。元々慕われていることもあるが、人々を惹きつける何かがある。そんな彼女だから、平和ももたらしてくれると、信じた――わけではない。何故なら、ケイにとってガイアはあくまで、娘のような存在だからだ。娘に、そこまでの力を認める親は、恐らく少ないだろう。いつまで経っても、親からしてみれば、子供は、大人になってもずっと子供である。


 だからケイは……信じることにした。()()()()()()()()()()()()()()()()。もしそこにあるのが絶望的な真実だったとしても、全ての責任を己が被ることまで覚悟した。


 弾かれたように、皆が顔を上げる。


「出発は、明日の早朝です。宜しいですね?」




 ――図書室に、拍手喝采が沸き起こった。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

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