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第20話 マッチアップ

「……僕も出るよ。さっきと同じカードで対戦させる」


 ノリヒラはそう言って、ジェリタとベストルファをクラウ=デモスに、ジュリアーヌをテンプスに突撃させる。

 フラギルたちから物凄い勢いで引き剥がされていく二人を横目に、フラギルはボソッと声をかける。


「貴様らの手で解放してやれ」


 二人の姿がどんどん小さくなっていく。だが、二人の目には確かに決意の炎が宿っていた。

 そうして残ったカナタ、ドゥアレ、アモーランが、勇者にしてこの国の現国王ノリヒラと共に、フラギル、リーシュパルと相対した。

 ーーいざ戦闘か、誰もがそう思い臨戦態勢をとる。しかしそんな緊迫した雰囲気を裂くように、勇者がフラギルに話しかけてきた。


「やぁ、外なる者にして闇たる魔族を従える魔王よ! 僕は争いを好まない、だから降参するというのなら全ての罪を償ってからなら、受け入れることができる!」


 その言葉を聞いて勇者一行のメンバーはあきれ、そしてフラギルは思考が停止し、リーシュパルは我を忘れかけた。


「あー、また始まった。勇者様の悪い癖が」

「……ん?」

「貴様、どの口がッ!」


 リーシュパルは怒り、ガチャンと剣に手をかける。しかし目の前にスッとフラギルの手が静止するように差し込まれる。


「あの者が憎いというのはよく分かる。だが、いちいち反応していては先程のように無様に負けるだけだ。……そうだな、あの者は道端で踏み潰された犬の糞だと思え。貴様は散々あの者をクソクソクソ、と言っていたではないか。」



 ーー犬のウ○チ。その単語が出てきたあたりで、ノリヒラの額にピキリとスジが浮かぶ。それをめざとく察知したカナタが怒りの声を上げる。


「貴様! ノリヒラ様の情けを侮辱するか!」

「降伏しない、か。僕としては降伏して欲しかったんだけどね……。自殺してもらうしかなくなるから」

「何、自殺してもらうしかなくなる……だと?」


 リーシュパルが声を振るわせノリヒラを見つめる。その視線をノリヒラは鬱陶しそうに手で払って話を続ける。


「そうさ、僕が愛したなら相手も僕に愛をくれて当然だ。でもそこで反抗したなら、たとえその後に愛をくれても僕は愛せない。だから、死んでもらっているんだ。今までもずっとそうだった」


 やれやれと、そんなふうに首を横に振るノリヒラ。

 勇者の滅茶苦茶な方針に反抗し、死んでいった者たちがこんな身勝手な理由で殺された。この事実に、ある程度予想していたとはいえ先程フラギルに言われたことなど頭からすっ飛んだリーシュパルは、ワナワナと握りしめた拳を震わせる。

 そこへフラギルがノリヒラに追い打ちをかけるように煽る。


「猿どもが賢しく鳴くな。ーー特にそこの女」


 ビシィ。……多分空気がガラス出てきていたならこんな音が鳴っていただろう。

 ノリヒラの周りの雰囲気が重くなる。


「僕をバカにする言葉はある程度耐えられる自信がある。……だけど僕の妻をバカにする奴だけは絶対に許さない‼︎」

「クサイ台詞だ」


 そう言ってシッシッと手を振るフラギルの前で、ついに勇者も臨戦態勢をとる。


「みんな、いくぞ‼︎ーーガフッ⁉︎」


 しかしそう言った勇者は吐血してしまう。


「ーーッッッ⁉︎」


 口内を千の刃が切り開いているような、食道に直接チェーンソーをぶち込まれているような、そんな痛覚が勇者を襲う。


「がががががッ!?」

「テメェ、ノリヒラに何をしたァ!〈鑑定(かんてい)〉!!」


 ドゥアレは急にノリヒラが倒れた原因を解明すべく、即座に鑑定の能力を使用する。しかし、勇者の体に異常はなかった。

 ならば、そうドゥアレは思い、フラギルを鑑定する。

 深く深く、フラギルの中へドゥアレの意識が潜っていく。しかし、探せど探せどフラギルの情報は見つからない。


(この海の中にいるような感覚……、初めて鑑定を使った時みたいだ)


 ドゥアレはさらに深くへ潜る。すると、三つの光が見えた。


(……あれか?)


 ドゥアレは目をこらし、その光を見ようとする。しかし、三つの光の真ん中きら放たれた光がドゥアレの目を焼き、上から落ちてきたナニカにドゥアレは押し潰された。


(ギャァァァアアア⁉︎)


 ドゥアレが消滅した後、三つの光から声が聞こえてきた。


『なんじゃったんじゃあの目ん玉。思わず突いてしもうたが』

『鑑定されてたのかもな。それよりもなんだこのデケェ盾』

『これこそフラギル様の愛なのですよ。私たちをこの盾で守ってくださったのです』


 意識がフラギルから弾き出されたドゥアレは、鑑定で目の当たりにした光景と経験に地面に這いつくばり、悲鳴をあげてのたうち回る。

 その光景を見たフラギルは意識を内側に向け、三人に話しかけた。


『なぁ、我まだなにもしておらぬのに勝手に倒れたのだが?』

『一人は鑑定に抵抗したときにモロに反動を食らったって感じだが』

『そこでガァガァ鳴いている勇者は、恐れ多くもフラギル様の言葉を使ったから罰が下ったのでしょうね』

『ウーム、分かるような分からんような』

『それではゼル。あなたに分かるように説法を行いましょうか?』

『ーーうむ理解シタゾ!!』


 ガァン、とフラギルの体を金属音が揺らす。意識を戻すと、カナタが剣を抜き放ちフラギルに斬りかかっていたのだ。


「貴様‼︎ 一体何をした‼︎」

「何、とは」

「とぼけるな!」


 カナタの射抜くような視線を受け、フラギルは目を光らせながら心底嫌そうな声音で返答する。


「何もしていない。ただ勝手に自滅しただけだ」

「ふざけるなぁ!」


 剣閃が散らばり、フラギルのあちこちを撫でていく。

 フラギルは無言でその全てを受けていたが、数撃の後、ガギャアァァァンと一際大きな音がフラギルとカナタの剣の間で鳴り響いた。

 フラギルは無言でカナタの後ろを見やる。そこではノリヒラが立ち上がっており、オーラのようなものをカナタに流し込んでいるのが見えた。


「カナタ、僕は大丈夫」

「ーーッツ、ノリヒラどのぉ〜」

「ドゥアレ、その痛みは幻だ! その痛みを現実のこいつらに教え込むんだ! いくよ皆んな!」


 ノリヒラはそういって腰に下げた短剣を鞘から抜き放ち、怯んだ三人を魅了のスキルで鼓舞する。


「「「はい!」」」


 魅了の効果の面目躍如と言っていい。あれほどたじろいでいた勇者一行が戦闘態勢に移行し、猛然と駆けてくる。


「ではリーシュパル、行くぞ」

「はい!」

「〈威砲(アーブラス)〉」


 いざゆかんと剣を抜いたリーシュパルの横で、カッ、と極太の光線が勇者たちめがけて発射される。

 地面を砕き、砂の煙が立ち上る中、続いて光の砲撃が豪雨の如く撃ち込まれる。されど流石勇者といったところだろうか、ノリヒラは回避しつつもフラギルに接近し、手に持った短剣をフラギルに突き立てようとする。


「覚悟しろ、魔王‼︎」

「……魔王などではないのだがな」


 ついに、勇者とフラギルが真正面からぶつかった。


この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

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