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第19話復活のオトシモノ


 爆発の衝撃によりもうもうと砂埃が辺りに立ち込め、皆の視界を遮る。だがその中にあってさえ、キラキラと陽の光を反射して輝くフラギルの存在感は薄れない。

 自分の技が弾かれてしまったカナタは、驚愕に顔を歪ませつつをその光から逃れるように飛び退く。その後ろではノリヒラがまぶしかったのだろう、自分の顔の前に手を出して、反射光を遮ろうとしていた。


「なんだあれ、増援か? まぁいい、アモーラン。まとめて焼いちゃって」

「分かったわ。〈火炎速射弾(ラピッドファイア)〉」


 アモーランがそう言うと同時に、アモーランの背後で小型の魔法陣が唸りと共に次々とさ生成され、空気が揺れて見えるほどの高温の火球がフラギルめがけ一斉に射出される。

 唸りをあげてこちらに飛んでくる赤い光を見たフラギルはチラ、と後ろの様子を確認する。

 クラウ=デモスやテンプスらは立ち上がっただけマシであろうが、先程のダメージからかうめき声しかあげず、その身に迫る炎弾を避けるそぶりを見せずフラフラと突っ立っている。そしてリーシュパルに至っては鎧に大小無数の傷が入り、所々溶けているような、まさに満身創痍の見た目で地面に倒れ伏し、ただ迫ってくる幾多もの炎弾を眺めているだけであった。

 フラギルはその状況を一瞥した後正面を向き、腹で燦然(さんぜん)と輝く虹球の周りの留め具に手をかけギゴゴと音を鳴らしながら、ハサミをこじ開けるようにバカンと開ける。その瞬間、フラギルから発せられる威圧に世界が震え、周りの地面から赤銅の壁がフラギルらを包み込むように反り立った。


「きゃあっ!」


 揺れる大地に足を取られ、アモーランが転倒しかける。それを受け止めたノリヒラは顔を赤く染めるアモーランを胸に抱きしめ、ボソリとつぶやく。


「へぇ、結構面白そうじゃん」


 ズドドドドォッと紅蓮の火球が壁を叩き、空気を震わせるが、煙が晴れ、見えた壁は当然のように無傷であった。

 ノリヒラはそれを見て腕を組む。


「カナタ、ドゥアレ。あれを破壊しよう」

「承知‼︎」

「了解ィ‼︎」

「私もやるわ!」


 ノリヒラの言葉をきっかけに、赤銅の壁に無数の斬撃が、何発もの弾丸が、無尽の火炎弾が撃ち込まれた。

 ガキィィィン、バガァンと壁から身を出そうものならたちどころに木っ端微塵になりそうな攻撃が壁を揺らす。その中でフラギルはリーシュパルの方へ振り返り、鎧を掴み上げて抱き抱えた。


「大丈夫か? かなり酷く損傷しているようだが」


 フラギルが鎧に手をかざすとその手が輝き、光に包まれた鎧のあちこちについた無数の傷が塞がれ、折れ曲がったり歪んでしまっていた箇所も修理された。

 元の(つや)を取り戻したリーシュパルの兜に、双眸の光が戻る。


「フラギル……どの? どうして……ここが」

「忘れたのか? 貴様の鎧は我の体を分けて作ったものなのだ。それを介してこちらにやってきたのだ 」

「なんと……」

「少しばかり起きるのに時間がかかってしまったがな。ここで美味な感情でも得られれば、我が再起動するのも早かったのだろうが」

「不味かったのですか? ここの者たちは皆勇者に魅了されているから、一応幸福なはずですが?」

「……味がしなかったのだ。全くの無味、よ」



 フラギルは気絶する前、今まで溜まってきた怨念、その悪感情を味わっていた。

 リーシュパルと初めて接触し交戦した時に、周りにいた取り巻きたち、テンプスがいたオルハラ王国の亡霊たち、そしてクラウ=デモスの部下、臣民たちの、その全ての悪感情をフラギルはあまりの不味さに気絶するその時まで味わっていたのである。

 気絶した後、何かの感情を得れば再起動しただろうが、この街に入っても感情を得なかったため、今この時に再起動することとなった。

 それまでは本当に物言わぬ、ただ銀色の球として、砂混じりの風に吹かれながら荒野にポツンと転がっていたのである。

 ドドン、ドドォと揺れる中、テンプスがおずおずとフラギルの背に話しかける。


「フラギル殿を置いていってしまったのは、申し訳なかったと思っているのですが……」

「それは別に良い。こちらが気絶し、脱落したのだから」

 

 その言葉を聞き、フラギルの後ろにいる3人がほっと安堵するような表情になる。しかしそこに、だが、とフラギルの話が続く。

 3人は無言で驚き、その話に注意が持っていかれた。


「勇者の攻略はどうするつもりだ?リーシュパルは恐らく知っているだろうが、見た感じ魅了された者どもに苦戦しているようだったが。あれら全てを殺さねば、勇者を討つことは叶わんぞ」

「なッ⁉︎」」


 その言葉を聞いたテンプスとクラウ=デモスが驚きの声をあげ、リーシュパルの方を凝視する。


「……確かに、勇者の"魅了した者に自身のダメージを移す"という、あのスキルは強力です。無敵と言っていいほどに。そのせいで魅了にかかった者たち全員(・・)を殺さねば、あの勇者に攻撃が通らないのです……」

「では、ジュリアーヌお嬢様も……」

「ジェリタ、ベストルファを殺さなければならんのか!」


 3人の間に重苦しい静寂が流れる。リーシュパルとテンプスは俯き、クラウ=デモスはギリリと拳を握りしめる。

 3人の心の中では狂おしいほどの葛藤が渦巻いているのだろう。

 ーービギキ、と勇者とフラギルを隔てる壁にヒビが入る。それを見たノリヒラらは、より一層激しく壁に攻撃を撃ち込む。

 ヒビから漏れる光を顔に浴びながら、フラギルはそのヒビを塞ぐように手を押し当て、力を込めて壁をこちら側から粉砕してしまった。

 フラギルはもう片方の手で、開きっぱなしだった留め具を持ち上げ、バキン、と硬質な音を響かせ元の位置に戻す。


「<属性変甲メライン>」



 視界が白く染まるほどの光に、ビリビリと大気が鳴くほどの衝撃波がフラギルの手の先で生み出される。攻撃するために近くまで寄っていたカナタなどはウッ、とうめき声をあげて吹き飛ばされていった。

 砕けた瓦礫が唸りをあげて、フラギルに次々と装着されていく。


「覚悟を決めろ」


 赤銅の鎧に身を包み、体の大半を隠すほどの大盾を持ったその姿。

 かつて人類を滅ぼしかけた蟲の皇を退けた、その偉業、希望の体現にして守護の具現こそ、ーーフラギル。


土装形態グランドフォーム、換装完了」


 ……どこかでティナの黄色い悲鳴が聞こえる気がする。

 その荘厳な外見を目にしたアモーランらは、しかしさほど動揺していなかった。


「なんか言ってんなー……なぁアモーラン、なにか分かるか?」

「下等なモノの言葉など、聞くに値しません」

「そも、(それがし)には獣のら唸り声のように聞こえるでござるが」


 そう、言葉が通じていなかったのである。こんな話の内容、ティナが聞こうものなら即、改宗案件である。

 しかし。


「へぇ、なんの覚悟さ」

 

 どうやらノリヒラにだけは通じたみたいで、ノリヒラはその端正な顔を獲物を前にした猛獣のように歪めた。


「行くぞ」


 そのフラギルの言葉は、特に激励するものでもなかったが、ただ静かに、リーシュパル、テンプス、クラウ=デモスら3人の心の火を再び燃え上がらせた。


「はい!」

「承知いたしました」

「あぁ!」

奪われたものを取り戻す戦いが今、盛大に始まるーー!!







……といいなぁ

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