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第18話 愛すべき人

「「「「「おおおォォォ‼︎」」」」」


 ノリヒラの魅了にかかった人々が、リーシュパル目掛けて突撃してくる。


「この人たちに罪はありません!どうか手加減を!」 

「承知しました」

「むぅ……多少死んでも許せ」


 その人の津波をリーシュパルは剣の腹で頭を一つ一つ叩いて昏倒させ、魔王は黒い霧のようなもので巨大な双腕を作って拘束し、テンプスはその鮮やかな手刀で次々と向かってくる敵の意識を刈り取っていった。


「オラオラオラオラ!」

「お命頂戴(ちょうだい)するでござるよ!」



 しかし、人の波の絶え間をついてドゥアレの構えた拳銃から撃ち込まれる弾丸と、人々の間を()うようにすり抜けてくるカナタの斬撃がリーシュパルらをかすめる。

 テンプスは自分の体に当たりそうになった弾丸をとっさに手で払おうとした。

 生きていた頃に引っ張られた咄嗟の反応だったのだろう。

 ーー無視していい。そう、リーシュパルとクラウ=デモスは考えていた。普通ならば霊にそのような物理攻撃は効かず、ダメージを与えることはないからだ。

 ……しかしその考えとは反対に、その弾丸はテンプスの手を抉り、その手にはめた白い手袋をグチャグチャにしてしまった。


「グッ!」

「ーーえ」

「何?」


 テンプスの顔がしかめられ、クラウ=デモスは怪訝そうに眉をひそめ、リーシュパルはその光景を見て(ほう)けてしまった。


「ノリヒラ殿の能力の一端でこざるよ。拙者たちを強化してくれているんでござる」

「ははは! ノリヒラに挑むっていうから、どの程度かと思っていたのにこの程度かよ!」


 人の壁の向こうで、そんな声が聞こえる。

 クラウ=デモスは群がってくる敵を地面に叩きつけつつ、その巨大な腕で自身を守りながら叫ぶ。

 

「ええい、うっとおしい! 豆鉄砲も大概だが、敵の数が多いすぎるぞ!どこからこんなに集まってきた!」

「おそらく、この街の者全員がここに向かっているかと。これではキリがありませんな」


 テンプスの言う通り、広間につながる八方の通りから今もワラワラと人が押し寄せてきている。ノリヒラへの愛を叫びながら列をなしてなだれ込んでくる様はまさしく、愛に(おぼ)れる民衆の行進といったところか。

 その光景を見たリーシュパルが剣を掲げ、怖気を群がってくる者たちにぶつけるように叫ぶ。


「ならばこちらも!ーー果てを超えるぞ!〈鎧旋門ゲイバリル〉!」


 リーシュパルの後ろに禍々(まがまが)しい門がそびえ立ち、群がる人々を向かい入れるかのようにギゴゴゴゴ、と重苦しく扉が開く。しかしその門から唸り声をあげて溢れ出てくるのは、ノリヒラへの愛を歌う者などではなく、ノリヒラへの恨みの炎を宿した怒れる暴徒たちなのだ。

 当然、両者は雄叫びをあげ、真正面からぶつかった。

 これで少しは戦況が持ち直したーーそうリーシュパルが思った矢先、召喚した軍勢の一角が物凄い勢いで崩壊しているのを感じ取った。


「なんーーだ⁉︎」

「な、ベストルファ、ジェリタ⁉︎」


 急いでそちらの方向に目を向けると、魔族の女と子供、そして城砦の如き大鎧を身にまとった者が、召喚した兵士達をまるで紙切れのように吹き飛ばしながらこちらに向かっていた。

 女と子供の赤い目と、大鎧の女の青い目の光がリーシュパルらを射抜く。


「やはりその御顔、ジュリアーヌお嬢様⁉︎」


 先程テンプスが大鎧を見た時は兜が閉まっており、その奥に隠された顔を確認できなかった。しかし今、大鎧を身に纏った者の顔を見たことによってテンプスの疑問が確信に変わる。

 大鎧の者は走りながらテンプスの言葉を聞き、上げていたバイザーをガチャンと下ろした。 

 三人はリーシュパルらを守っていた壁を全て薙ぎ倒し、姿がどちらからも見えるようになっても走る速度を落とさず、そのまま女と子供はクラウ=デモスに、大鎧はテンプスへと突撃し、二人を強制的に戦線から離脱させてしまった。 


「お、おいジェリタ!ベストルファ!やめろ、攻撃するな‼︎」

「「……」」


 吹き飛ばされてしまったクラウ=デモスは、二人の魔法攻撃をまともに喰らいながらも反撃できないでいる。

 そしてテンプスも。


「……」

「分断、そして各個撃破ということでしょうか。しかしなぜこんなピンポイントに関係する者がーーグッ‼︎」


 大鎧の振るう戦斧により脳裏に浮かんだ疑問と共に、砕けた大地ごと吹き飛ばされて空を舞っていた。

 その様子をドゥアレはニヤニヤと笑いながら眺めていた。


「おーおー、やってるやってる」

「なかなか悪辣でこざるな、ドゥアレ殿。正々堂々と戦えんのでござるか?」

「鑑定の魔眼で調べた結果を元にして、戦略を組み立てることの何が悪いんだカナタっちー! それに、相手がなにか姑息な手段を持っていないか調べているからこそ正々堂々とした戦いが成立するってもんだろ?」

「……頑張れば一分(いちぶ)の理くらいは、こじつけられるものでござるなぁ」

「そりゃねーだろ!」


 ドゥアレの持つ鑑定の魔眼は、見た相手の戦力や成長度、弱点などを見ることができる。今回は見た情報を活用し、血縁関係の者や親交のあった者同士が当たるように仕向けたのだ。

 それは見ようによっては卑怯だととらえられるかもしれない。

 カナタの責めるように細められた目が、ドゥアレの心をドスドスと突き刺す。

 

「くぅっ……」

 

 ベストルファ、ジェリタ、ジュリアーヌの直撃こそ喰らわなかったが、さらに戦況が悪化したことにリーシュパルは苦悶の声をもらす。しかし依然、戦いの意思は燃え盛っていた。

 先程は勇者の周りに多くの者がいて、本気で攻撃を加えることができなかった。しかし今、勇者ノリヒラの周りにいるのは、近くにいる者であの魔術師の格好をした女。それもかなり離れている。

 ーー好機。そう、リーシュパルは思い、駆ける。

 

「あっ」

「なぁ⁉︎」

 

 ドゥアレとカナタの横を通り抜け。


「待ちなさい‼︎」


 制止する魔術師の女の声を無視し、ノリヒラを斬りつける。

 その一撃は先程勇者に喰らわせた斬撃よりも遥かに強く、勇者を守った障壁を(あめ)細工のように砕き、体を豆腐が如く粉砕させた。

 

「やっーー」


 成し遂げた。そう思ったリーシュパルの背後から。


「無駄無駄。下を見てみなよ」

 

 ノリヒラの神経を逆撫でするような声が背後から響く。

 ギギギ、とリーシュパルは振り返り、ノリヒラが五体満足でいる姿を確認する。そしてノリヒラが指し示した方を見た。

 そこには、肉塊を中心として赤黒い血飛沫が飛び散っていた。

 無言で剣を構えるリーシュパルに、ノリヒラが嬉しそうに話す。


「僕には致命傷を負った時に、僕を愛してくれている他の人にダメージを移すことができる〈愛人(ラバーズ)〉っていうスキルがあるんだけど……喰らったらあんなことになるんだ。ひどいね、こりゃ」

「この……外道がァァァ‼︎」


 リーシュパルは無駄だと知りつつも、怒りから再度ノリヒラに大剣を振り上げ、唸りをあげて叩きつける。


「だから無駄だってば」

 

 剣が振るわれるたびに、地面に真紅の花が咲いていく。

 その斬撃はもう一度ノリヒラの体を切り裂くことはなく、何度か体に命中した後ノリヒラの身を守るバリア、いやそれを(まと)った人差し指に、周りをビリビリと振るわせる衝撃波と共に弾かれクルクルと宙を舞い、ストンとノリヒラの手に収まった。


「グッ⁉︎」

「ーーそれに喰らわないでいることもできたんだよ」

 

 手にした剣がボボォォォっと緑の炎をあげ、勇者の手に収まるまいと燃え上がる。

 

「あえて、ってやつだねー。……この剣熱いから返すよ」

 

 ペイっと投げられた剣がドコォォォンと音を響かせ、リーシュパルにぶち当たる。リーシュパルは何か言うこともできずただただ吹き飛び、地面に叩きつけられた。


「そろそろ終わらせるか。アモーラン!カナタ!宜しく‼︎」

「はい、ノリヒラさまぁ〜。〈火炎旋風(ブレイジング・ハリケーン)〉」

「承ったでござる!」


 ノリヒラの言葉に応じ、カナタの体を金色の光が包み、魔術師アモーランを中心に目の覚めるような真っ赤な魔法陣が幾層にも展開される。


「派手な技が無い俺は退散しますよー、っと」


 ドゥアレはそう言って、ノリヒラの後ろへ歩いていく。

 轟轟と燃え盛る炎の渦が亡霊達を引き寄せ、焼き尽くしていく。その魔法の制御をしていたアモーランが魔法陣越しに、ベストルファ、ジュリアーヌらに向かって命令する。


「あなた達のもこっちによこしなさい!」

 

 その命令を合図にし炎の中へ、ベストルファが風を起こしてクラウ=デモスを吹き飛ばし、ジュリアーヌがテンプスを蹴り込んだ。


「ぐぬぅ!」 

「ぐぶっ」


 炎の渦の中で倒れ伏していたリーシュパルに、炎の渦のなかに放り込まれた二人は激突する。

 そして。


「喰らえ!〈天地締咬閃・封〉!」


 天を裂き、地を砕かんとする黄金の剣閃が、極太の塔が倒れこんでくるかのようにリーシュパルらがまとまった所に振り下ろされた。

 (まばゆ)い光を直視したリーシュパルは思わず俯き、目を閉じてしまう。

 炎海の真っ只中にいるからだろうか。兜から銀色の雫が涙のようにピタンと落ちる。


(あぁ、こんなところで……、こんな所で終わるの、か)


 暗く閉ざされたリーシュパルの世界で。

 ーー全身を震わせる轟音が鳴り響く。

 ーー自分の体に石つぶてが何度も当たるのを感じる。

 ーー音が何も聞こえなくなった。

 ……しかしそれでも、この暗い世界を破壊する金色の光はその暴威を振るわなかった。


「……?」


 リーシュパルは不思議に思い目を開け、前を向く。 

 すると、その前には影ができていた。


「……⁉︎」


 リーシュパルは驚き、視線を上へとあげる。

 ()に照らされ銀色に輝くその身体。人とはおよそかけ離れた蟲のような外見。見る者に希望と絶望を与える神秘を(まと)ったその者こそ。

 そう、フラギルである。


「ーーえ」


 いなくなったはずのフラギルが拳を天に突き上げて、リーシュパルの前に立っていたのだ。


「不味い、な」


 フラギルの頭上で、轟音と共に金色の爆発が起こった。

この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

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