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第17話 愛を統べて、全ての愛を

「キャー! 王様ー!」


 広間に集まった者が王の身を案じる悲鳴をあげる。実際、魔王ですらリーシュパルの一撃であの勇者の命を取ったと思ったのだ。

 しかし。


「……貴様は自分の民を信用していないのか?」

「失敬な、これは愛によるものさ」


 リーシュパルの振り下ろした大剣は、勇者の前に展開された魔法陣のようなものに、火花を散らしつつしっかりと受け止められていた。

 それを見た取り巻きたちから、オオォっと歓声が上がる。しかしそんな人混みの中で、魔王が立っているところはぽっかりと穴が空いていた。

 リーシュパルは苦虫を噛み潰したようにうなり、勇者から距離を取るために飛び退き、剣を構えつつ魔王の隣に着地する。

 臨戦の構えを取る2人を交互に上から睥睨していた勇者は、その端正な顔に笑みを浮かべつつ、明るい調子で声をかける。


「背後に国はなさそう、か。じゃあ君の名前を教えてくれるかい? 可能な限り覚えておくよ。あぁ、騎士鎧の隣の方は別にいい、知っているからね。ーーなんで蘇っているんだ? 消えたはずだろう」


 その言葉をリーシュパルが認識した瞬間、剣を持つ手がギリィときしみ、全身から怒気がもやという実体を伴って漏れ出てくる。


「ふむ、リーシュパル。先ほど貴様を制止していた身ではあるが、いざ勇者を目の前にしてみると怒りがマグマの如く湧き上がってきたぞ」

「ーーッッッッッ、誰がァ! 誰が貴様などに私の名をーー!!」


 そう言って勇者を見上げる2人の目に、勇者の奥からコツコツと足音を鳴らして出てくる人影が見えた。


「ーーあらノリヒラ様、そんな病におかされた狂犬の名前を知ってどうするのぉ?」


 大きな魔女帽子を被り、真紅のローブに身を包んだ女は、そう言って歩きつつ、

勇者の方にしなだれかかる。


「こいつのことだから、ペットにでもしてしまうんじゃね? こいつらみてぇに」


 その後ろから現れた眼帯をつけた女はそう言って、顎をしゃくって後ろを指し示す。


「「……」」 


 その先では怪物かと思うほどに大きな鎧に身を包んだ女と、その横で女の子を連れた細身の悪魔族の女性が、人目をはばかるようにおずおずと出てきていた。


『ーーな、あの鎧、まさか中に入っているのはジュリアーヌお嬢様か!?』

(ーーベストルファ! ジェリタ!)


 その鎧姿を視認したテンプスは拳を握りしめ、悪魔族の2人を見たクラウ=デモスは、妻子が生きていたことに驚きを隠せず、臨戦態勢を少し崩してしまう。


「……ではノリヒラ殿の命を狙ったあなたも“ぺっと”というやつではござらんか?」


 最後にそう言ってペタペタと足音を鳴らしながら出てきたのは、所謂いわゆる東方風の装いを身につけ、腰に長短二振りの刀をいた少女であった。


「かーっ、カナちゃんは相変わらずお堅ぇな! 悪かったーって、俺だって姉ともども反省してんだぜ?」

「本当でござるかぁ?」


 勇者の後ろでキャイキャイと女どもが騒いでいる。その間、リーシュパルは怨敵に前にして何もしなかったわけでは無かった。


(殺す殺す殺すコロスコロスコロスーーッ!)


 空間が揺らめくほどの魔力を放出し、絶殺の意思を込めて勇者を呪っていた。

 不可視の力が両の手を形どり、勇者の首を締め上げる。

 するとパキン、バギンとノリヒラの身につけた対呪用の魔道具が割れて地面に落ちていく。それを見た魔術師の装いをした女は、一瞬目を見開いた後スッと目を細め、そして超重量の嗜虐心しぎゃくしんを持ち上げるかのように口の端を吊り上げた、


「あらぁ? あなたたち、そこで騒いでていいのかしらぁ? このままだとノリヒラ様が死んじゃうわよ」

「「な!?」」

「え、俺死にかけてるの?」

「さっきから着けたアーティファクトが落ちているでしょ。あの鎧、なかなかやるわよ」


 その言葉でノリヒラは初めて目線を下に向ける。

 地面に落ちたアーティファクトをまじまじと見つめるノリヒラの背で、言い争っていた2人は同じ方向で憤慨する。 


「……不意打ち、で、ござるか」

「きったねえ、アイツ!」




「名乗らぬ者にかける情けなどーー、そもそもノリヒラ殿を害そうとした者にかける慈悲などござらん!」


 怒りの炎を双眸に宿した2人は、そのまま走り出し、リーシュパルの元へと跳んで行った。


「あらあら、あんなに盛っちゃって。ノリヒラ様? 私も行ってまいりますね」

「そう? どうせならにも手伝ってもらおう」


 ノリヒラがそう行った瞬間、リーシュパルの周囲の人々の目が、怪しい色に光る。これこそ、かつて勇者にして今はこの国の王ノリヒラの持つ、魅了の力。


「あぁ、あぁあぁぁーー」

「うぅあ、あぁおーー」

「おごごごぽぽぽーー」


 そして後ろで静かにしていた悪魔族と大鎧の女性もリーシュパルめがけ、駆け出していた。


 フラ、フラと砂糖に群がる蟻のようにリーシュパルに集まっていく人々を見た女は、細い指で唇をおさえる。


「ふふ、今日は燃え盛る炎のように情熱的なパーティーになりそうね」


 そう言って女はコツコツと足音を響かせながら、ゆっくりとフラギルの方へ歩き出した。

 

「「「「「「「「ノリヒラ様、万歳‼︎」」」」」」」」

「まぁ、うん、楽しみだ」 


 ノリヒラの目にはリーシュパルの掲げた剣の反射光がキラリ、と映った。

この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

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