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第16話 邂逅

 フラギルを紛失して3ヶ月が経った。

 その間にリーシュパルとその一行は進み続け、荒野を超え山を登り、川を下って勇者が治めるという世界最大の城塞都市、カルブズルダオに入った。


「ーーもっとも、この都市がここまで大きくなったのはそれ以上の都市を滅ぼし尽くして、繰り上げになったからという訳なんだがな」

「その都市に住んでいた住人をこの都市に連れてきた、という話は聞いたことがありますぞ」

「……その住民とやらも勇者の魅了を喰らったのだろうな」

「まったくですな」


 魔王は、しげる雑草のように見えるほどの人通りを見たが、行き交う人々の眼に活力は無く、輝きなど無かった。

 リーシュパルは俯き、無言でその通りを歩く。

 通りを抜けると、目を焼くほどに白く壮麗な城の一部が、リーシュパルらの視界を占拠した。


「むぅ、ありし日の王城を見ているようで大変気分が悪いですな」

「同感だ。我らを滅ぼした上で、この安っぽい輝きを得たのかと思うと……な」

「やや、クラウ殿は分かりますか! この濁ったようなぼんやりとしたような、なんとも言えぬこの輝きが」

「当然だテンプスよ、これでも一国のあるじだったのだ」


 その言葉を言った後、クラウ=デモスはチラ、と町の人々を見やる。

 先ほどと変わらず人の数は多いが、相変わらずその目に生気はなくそれに加えて民衆は皆、リーシュパルらが今までに倒してきた幽霊たちと似たような状態でーーあるいはそれ以上にひどくーー勇者のことを崇め奉っていた。

 ある者はその城の前で跪き、手を組んで祈りを捧げ、ある者は心臓を取りださんとばかりに胸を掻きむしっている。


「これは大変失礼なことを」

「いやいい。ーーそれよりもテンプスよ、我と話すよりもリーシュパルの方を見た方が良いのではないか? 今にも斬りかかりそうではないか」

 

 ギョッとしたようにテンプスがリーシュパルの様子を確認すると、クラウ=デモスの言った通り、兜から怪しい光を放ち、腰に下げた剣に手がのびかかっていた。


「あの中に私の復讐する相手がいるのですよ? 湧き上がるこの気持ちをどうして抑えられましょうか」

「これがバーサーカーというやつか」

「待ちましょうぞリーシュパル殿。今闇雲に動いて消耗してもーー」


 テンプスがリーシュパルをなだめようとしたちょうどその時、何やら荘厳な音楽が鳴り始める。

 すると民衆が全員地に膝をつけ、同じ方向を見ながら手を擦り合わせていきなり祈り始めたのだ。


「何だ!」

「分からん」


 困惑する2人の目には、バァンとテラスの扉が開かれ、その奥から出てきたきらびやかな装身具に身を包んだ男が映る。

 復讐者たちは、その男の顔に見覚えがあった。


「ーーあいつは!」

「あれは!」


 そして、その男の姿を見たリーシュパルはただ叫ぶ。


「あぁ、アアア、あぁァァァ」


 ただ、リーシュパルらが立っている姿は、ひれ伏した群衆の中でよく目立つ。



「ーーなんだ、僕を前にして平伏しない奴がいる。へぇ、僕の知らないどこか遠くから来た旅の人かな? 君の国の名前とどこにあるかを教えてくれるかい? ーーそこに行ってみたいんだ」

「ーー勇者ぁぁぁぁァァァ!」


 それを見た男が、普通では絶対に人の声など届かない距離であるのに、よく通る声で話しかけてきた。

 そしてその瞬間ザッ、とひれ伏していた民衆が動き、グリョン、と無機質な顔が一斉にリーシュパルらに向けられた。

 その目の奥にあるのは怒りか、嫉妬か、それとも慈愛なのか。光を失った数多あまたもの目にリーシュパルの姿がぼんやりと映る。


「ほざけ! 貴様のそれは侵略だ!」


 魔王が怒りに手をギリリ、と握りしめつつ、あくまでも冷静に推察している横で、リーシュパルが叫び声を上げて発狂する。

 リーシュパルの体からもやのようなものが噴き出され、それに内包された魔力は暗くも輝き、辺りを怪しく照らし出す。


「お?」

(お待ちを! リーシュパル殿、今ーー!!)

「あそこに見えるは恩讐の果て! 我が同胞よ、共に行こう!<怨念収縮斬ヴェルザノム>!」


 緑色に輝く一筋の閃光となり地面を砕いて跳び上がった復讐者は、抜き放った剣を大きく振りかぶり、勇者めがけて彗星のごとき軌跡を描いて振り下ろした。


この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

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