第15話 置いてけぼり
「ない、いない……」
と言いながらフラギルを探し回るリーシュパル。
その姿を腕を組んで見下ろしながら、クラウ=デモスは言う。
「どこでその袋を無くしたのだ」
「少なくとも私が突撃するまでは確かに、私の腰にくくりつけてあったのですが……」
その言葉に、クラウ=デモスは戦闘で荒れ果てた大地を見渡す。
「……この有様ではまぁ、探すのは無理か」
「そんな……。テンプス爺は何か知りませんか?」
「えっ」
リーシュパルの急な爺発言に、少々慌てるテンプス。
「い、いや分かりませぬよ。私も戦っておりましたから」
「そもそも、フラギル様はなぜ出てこないのだ? 探しているのだから、自分でーーもしや見限られたか?」
「それだけはないと思いたかったのですが……ありえるかもしれません。フラギル殿は感情を味として認識しているので、私たちが倒した霊たちの、あまりに不味い感情に耐えきれなくなって、その、やはりあなたが言うように見限ったのでは」
クラウ=デモスは、フラギルの持つ妙な特性に疑問を抱いた。
「む、どう言うことだ? 感情を味として認識しているだと?」
「はい。それゆえ復讐を果たした後の私の感情をフラギル殿に味わわせることを約束し、その対価として私はフラギル殿と協力関係を結んだのです」
「あれは比喩などではなかったのか」
フラギルと交わした約束の意味はそうだったのかと納得する裏で、目まぐるしく魔王の思考が回転する。
(感情を味として認識する機能だと? それではまるで人間の感情を餌とする我々、悪魔と同じみたいではないか。ただ、不味さを感じると。そんな味、我々では感じない。そもそも、そんな機能が異世界侵略に必要なのか……?
フラギルという者は世界を渡ってきた支援者ではなく、ただ力を持った現地のーー。それでは、私のただの勘違いか? それにしては凄まじい力を持っていたが)
そこまで試行したクラウ=デモスは、リーシュパルに向かって口を開いた。
「なぁ、リーシュパルよ。貴様はこれからどうするのだ」
「どうって、この戦闘が終われば次はいよいよ勇者の居城に乗り込む、とフラギル殿と約束したのですが」
「その予定、フラギルがいなくとも良いのではないか?」
その言葉を聞いたリーシュパルの、兜の奥にある目光りがスス、と揺らめいた。
「と、言うと」
「なに、簡単な話だ。リーシュパル、貴様は貴様自身の手であの勇者を打ち取りたいのだろ?」
「ーーえぇ」
「なら、勇者のために立ち塞がる者どもを全て、貴様が蹴散らさねばならぬのでは?」
無言のままクラウ=デモスを見つめるリーシュパル。その顔にビシィ、と指が突きつけられる。
「いいか、リーシュパル。我は、貴様が自分の手で復讐を成したいのに、他ならぬ貴様が他人の力を借りて成そうとしている、そういうことを言っているのだ」
「く……」
「ただまぁ勿論、我は貴様の軍門に降った故、貴様の手足のようなものだ。そこは気にするな」
リーシュパルの兜の闇の中で、目の光がチカチカと瞬く。
その右手がガチャリ、と震えながらゆっくりと自分の目の前で握りしめられる。
「私は……、私はこの手で勇者を討ちたいです」
「おぉ」
「それに、私が、私たちが戦えば戦うほど、フラギル殿がどんどん苦しそうになっていってーー。正直、見ていられなかったのです。私が復讐を成した後の感情などと、そんな、そんなちっぽけなものを対価にあれ程まで……」
ダラリ、とその右手が下される。
クラウ=デモスはリーシュパルの纏う雰囲気が変わったのを察し、口を開いた。
「では」
「ーーえぇ、行きます。行きましょう! 勇者討伐へ!!」
リーシュパルの復讐の、その道の果てを歩むための最初の一歩が踏み出された。
「了解だ」
そのリーシュパルの背中を見つめ、クラウデモスは内心で思う。
(自らの手で勇者を討ちたいと思うのならば、やはり部外者はいない方がいい。恨みを持つというのならなおのこと)
そう思い顔を顰めるクラウ=デモスの横で、テンプスがメガネをクイ、と片手で上げながらリーシュパルに詰め寄っていた。
「リーシュパル殿、復讐が終わっていないのにこの話をするのも何ですが、あなたが復讐を終えた後のことをそのように小さなものだと蔑むことはないのですよ」
「そう、でしょうか?」
「えぇ、それを蔑むことは、あなたの復讐を貶めることになります。むしろ、こんなものなんだとフラギル殿の口に叩きつけ、押し込むほどのものにする。そのくらいの気概で行きませんと」
「そうか……そうだな!」
「えぇ、そうですとも。もしかすると本当にフラギル殿が戻ってくるやもしれませんからな。クラウ殿ー、行きますぞー! 何をそこで立っているのですかー?」
「ん? あぁ、すまない。行こう」
ザッザッと地面を踏み鳴らし、クラウ=デモスは歩き出す。そしてそれを確認したテンプスは、リーシュパルの元に収納され、その姿を消した。
・・・荒野の地に光る銀色の球。そのつるりとした表面には、2人が歩き去っていく様子が映し出されていた。
この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。
気に入ってくださいましたら、是非是非『高評価(下の星をポチッと)』『ブックマーク』『いいね』等よろしくお願いします。




