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第14話 無くしたものは主人公ですか?

 夜のとばりを彩る数多の星が、実はこの荒野にも存在する。


「おぉ、オオォ、勇者サマ……バンザァァァイ!」

「あぁあぁァァ」

「バン……ザーイ」


 もっともそれは、ゾンビ、グール、死霊の類が放つ執着の光だが。

 そしてそれらがリーシュパル目がけて、空に何筋も残す流れ星のように襲いかかっているのだ。

 しかしリーシュパルは慌てず、剣を地に刺しマントをはためかせ、仁王立ちしている。


「迎え撃て!<鎧旋門ゲイバリル>」


 その声とともにリーシュパルの背後から、地を震わしながら荘厳な、されど痛々しい門のようなものが出てきた。

 その門の扉は、リーシュパルに群がろうとしている死霊たちの前で轟音を立てて砕け散り、そして。


「「「オオオォォォ!!」」」


 その門の中から、今までリーシュパルが救い出し共に戦うと決めた復讐者たちが、鎧にまとった燐光をゆらめかせ、濁流のごとく解き放たれた。


「行けぇ!<大死軍デスマーチ>!」


 両勢力が津波のような勢いでぶつかり合う。

 戦闘は激しく、色とりどりの魔法や流星の如き矢が、雨あられと降り注いでいる。


「……なぁ、リーシュパルよ」

「なんでしょうか? ーーあぁ、助けは入りませんよ、これしき」

「いやそうではなくてだな」


 手のひらの上にのせられたフラギルは、目の前のカラフルな光の宴と比べて控えめに光っている。

 そんなフラギルの前でまたドゴォと、土煙を盛大に巻き上げる大爆発が起こる。

 フラギルはその爆発光に照らされながら、気まずそうに声を発した。


「……我は、魔王を倒せば次は勇者を討伐すると思っていたのだがな」

「ええ、勇者は滅しますよ? 必ず」

「この光景はなんだ」

「私を少しでも強化するためのものです」

「ムゥ、それでは仕方ない」


 リーシュパルの鎧も、光を反射してキラキラと光っている。

 それを見てフラギルは、それにしてもこの光の大渋滞はどういうことだ、と思う。


「……このようにたくさんの死霊をどこで」

「魔王殿が教えてくれたのです」

「クラウ=デモスがか。奴は今どこに?」

「え? フラギル様の中にいるのではないのですか?」

「いや、今いるのは三人組以外だ。 テンプスみたく、外に出て戦っているのか?」


 フラギルはそう言って、銀糸を漂わせ、戦っているテンプスを指し示す。

 まるで食材であるかのように敵を乱切り、細切り、千切りにしていくテンプスの姿を眺めながらリーシュパルは言った。


「いえ、それはないかと。あの方は自分の民に手を下すことができなかったのだとか」

「ふーむ、なるほど」


 リーシュパルは考え込むフラギルから目を離し、戦場をぐるっと見回す。


「ーーあぁ、あちらに」


 フラギルはリーシュパルがさし示した方向に意識を向ける。

 見ると、クラウ=デモスが目を閉じて膝立ちになり、祈っている姿が確認できた。

 

「本当に手は下さないのだな」

「下した方がいいのでしょうがねぇ」


 リーシュパルの兜の奥で、目の光が細められる。そして逡巡しゅんじゅんを示すかのようにニ、三度明滅した。

 しかし、何かを決めたのかゆっくりと腰にかけた剣に手をかけ、抜き放った。


「……私も出ます」

「指揮官が前線に出るのはどうかと思うが」

「心配ご無用! 私、こう見えてこれより多いゴーストの軍団と戦ったこともありますから!」


 そう言ってフラギルを後ろの袋に入れ、はっ、という掛け声とともに跳躍し、リーシュパルは夜空を舞い、戦場にのど真ん中に降り立つ。

 そんなことをすれば当然、周りを敵に囲まれる。

 見渡す限りの敵、敵、敵。


「「「ガァァァ!」」」

「やぁぁぁ!」


 襲いかかってくる敵を、リーシュパルは剣を振るって切り刻む。

 その剣がつくる軌跡はまるで、台風のよう。 


『ムー……』


 そんな剣圧の中から、フラギルは切り伏せられる敵を見ていた。

 仲間が斬り刻まれているのを前にして、一歩も引かずただただ襲いかかってくる亡霊たち。そのどれもこれもがフラギルのとって不味いのだ。

 表面上は勇者に心酔するという甘い幸福感でコーティングされているが、その薄っぺらい層を噛み砕けば、ドロリと出てくる凄まじいまでの負の感情のオンパレード。

 そもそもこれが本当に料理として提供されたならば、目にした時点で凄まじいまでの激臭げきしゅうが、コーテイングなど関係なしに鼻を刺していただろう。 

 その強烈さを表すなら、常人ならあまりの不味さ、あまりの刺激臭に卒倒するレベルだ。


『不味い、マズい、マズイ……』

『ふ、フラギル様……』

『お、おい大丈夫かぁー?』


 どんどんとフラギルの機嫌が悪くなっていく。

 チカチカッと点滅する光は、ちょうど気絶する間際の視界か、息絶える前の心臓の鼓動のようで。


『う“』


 ピ〜、と心電図が真っ平らになったとでも表現すればいいのだろうか?放たれる光が消え、フラギルの動作が完全に停止した。

 そんなフラギルを入れた袋を後ろに吊るして戦うリーシュパル。


「やけに静かに……な!?」

「「「コォォォォ」」」

「なるほど、この者がボスという訳ですか」


 凍りつくような威圧を放つ巨大な亡霊が目の前に現れ、戦局はいよいよ大詰めを迎えようとしていた。


「キィ、ヤァァァァァ!」


 亡霊は金切り声を上げつつ腕を振るい、死神の鎌のように鋭い斬撃を四方八方に撒き散らす。


「戻れ! 他はあらかた始末した!」


 切り飛ばされた味方を視界の端で捉えつつ、そう言いながら剣を低めに構え、リーシュパルは地を駆ける。

 その全身に、霊たちの織りなす光が集っていく。

 その光は、遠くで目を閉じて祈っていたクラウ=デモスにも届き、その眼をこじ開けさせた。 


「おお、あれが救いの光と」

「キ!?」


 振り上げた剣に光が収束していく。

 リーシュパルは眼の光が尾を残すほどの速さで跳躍し、掲げた剣を振り下ろした。


「我が同胞よ共に行こう! <怨念収縮斬ヴェルザノム>」

 

 その剣圧は大地を砕き、ブワ、と風が巻き上がる。

 リーシュパルの鎧がきしみ、そのどこかに詰まっていたのか、ボロきれのようなものがヒラヒラと舞い上がる。

 

「キ、キァァァァ……」


 亡霊は竜巻の中で悲鳴を上げながら消滅し、残滓が放つ光は風にふかれ、天へと舞い上がっていった。

 カチャリ、と剣を振り下ろした格好をやめ、剣を戻すリーシュパルの背に、クラウ=デモスが声をかける


「あぁ、やったのだな。……やってくれたのだ……な」

「はい」

「すまない」

「いえ、そのようなことは。ーーその言葉はフラギル殿に言った方がよろしいかと」

「なぜ?」

「フラギル殿は感情を味として認識しているから、これまでもあまり戦闘を行いたくない様子でした。今の戦闘でも恐らくはーー」


 そう言ってリーシュパルはフラギルを袋から出そうと、背中に手をやって探す。 


「……?」


 しかし探せど探せど、その手が袋を探し当てることが無い。


「……!」


 無言でピョン、ピョンと跳ねても、ガチャガチャとした自分の鎧の音が響くだけ。


「な!? フラギル殿! 返事をしてください、フラギル殿ー!?」

「どうした」

「フラギル殿がいない!」

「……なに?」

「ない! フラギル殿を入れた袋が!」


 うわぁァァァァ、という悲鳴が荒野に吹く風に乗って、空へ溶けていった。


この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

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