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第13話 光の中に見えた闇

 リーシュパルは完全に消滅したと思っていた魔王が、自分を覗き込んでいることに驚き、急いで状態を起こし、向かい合う。


「い、生きていたのですか! ……もう死んでいるから生きている、と言うのは間違った表現かもですが」

「何、気にするな」


 ガシャン、とリーシュパルは鎧を鳴らし、土埃を払いながら立ち上がる。

 そして目線を上げようとすると、そこにはクラウ=デモスの手が差し伸べられていた。 


「あの、これは?」

「握手だ。仲間になるための、な」

「本当に……よろしいのですか?」

「あぁ。元々、我が貴様に勝てば配下にするつもりだったからな。その逆、と言うわけだ」


 差し出した手を、クラウデモスはさらにグッとリーシュパルに突き出した。

 リーシュパルはその手を見つめ、そしてガシッと握りしめた。


「では、これからよろしくお願いします!」

「あぁ、しっかり頼むぞ?」


 クラウ=デモスの手が、リーシュパルによってブルンブルンと、まるで子犬の尻尾のように振り回される。

 その光景を見ながら、クラウ=デモスはリーシュパルに向かって口を開いた。


「あ〜、それでだ。これから貴様はどうするのだ? もし可能ならばわーー」

「もちろん、あの憎き勇者を討伐しに行きます!」

「む、お、そうか」

「移動するなら、あなたも私の中に入って移動します?」


 何の気なしに、とんでもないことを口にするリーシュパル。

 それを聞いたクラウ=デモス。案の定目をパチパチと開閉して、信じられないものを見ているかのように口を開いた。


「……貴様まさか、配下の霊たちをその体の中に収納しているのか?悪いことは言わぬ。やめておけ」

「なぜですか?」


 ただ、叡智なる方面ではなく、霊体の体になってからの方面の話を選んだのはさすが魔王、と言ったところだろうか。

 クラウ=デモスは目を閉じ、息を吐く。


「我との戦いで見たであろ。曖昧あいまいなこの体では、霊を取り込めば取り込むほど自分の境目さかいめが分からなくなっていくのだ」


 しかし、深刻そうな調子でクラウ=デモスが放った言葉に、リーシュパルは兜の頬あたりをポリポリとかきながら返答した。


「ん? 私は特にそのようなことはありませんが?」


 なぜだという声がボソリ、とクラウ=デモスの口から漏れる。

 しかしその理由を考えても無駄だと思ったのか、クラウ=デモスは頭を振って言う。

 

「……だがまぁ、我はいい。このように美しいご婦人と話をしているだけで、我が妻が嫉妬から我のつま先を踏みつける未来が見えるからな」

「……むぅ。移動にあまり時間を割きたくはないのですが」

「我とて貴様と同程度の速度は出せるぞ?」

「いえ、私の方が速いかと」

「……そうなのか? だがそれでも無理だぞ。 我は嫌だ」


 リーシュパルは、自分の提案が断られてしまったことに少し落ち込んだ様子を見せた。しかしずっと握りしめていた右手に視線をやり、その手を開き、手のひらの上にのせた銀の球状の物体をクラウ=デモスに突き出す。

 突き出された方は目を細め、怪訝そうな表情を浮かべる。


「なんだそれは」

「仕方ありません、フラギル殿ー、お願いします〜」

「は?」


 困惑するクラウ=デモスの前で、銀球が虹色に光りだす。

 

『取り込む、という結果は変わらんのだな』

「なっ、我が吸い込まれっ、はかったかぁぁぁぁぁー」


 哀れ魔王。あー、という情けない悲鳴と共に、まるで掃除機に吸い込まれるゴミのように渦を巻いて吸引されてしまった。

  

『グッ……』


 そしてドシャッと、何も見えない暗い空間に放り出される。


『おい、リーシュパル! これは一体どういうことだ! ーーまさかこれは、勇者が持つと言われる無限収納バーー』


 そしてガバリ、と上体を起こし声をあげたが、目の端にとらえた極彩色の光に気づき、その目を大きく見開いた。


『な、なんだこの光は……』

『我が名はフラギル』


 フラギルの声をクラウ=デモスが認識した時、彼の脳内で稲妻いなずまがはしる。

 彼はすぐさまこう思った。

 勝てない、と。


『リーシュパルはでもあり、でもあるのだーー』

『ーーおお、フラギル様! なんと厳かで、なんと威厳に満ちたお声であろうか! クラウ=デモス、我が身、御身のためならば喜んでちりと化しましょうぞ!』


 そこで彼のとった行動は、跪き、手をこすり合わせるといった、悪魔帝にも見せなかった最大級の敬いの姿勢、神に祈る姿勢であった。


『……と、言っておこうかと思ったのだが、どういうことだ?』


 困惑したような声を発する、七色に光る球体。

 それを前にして、このような行動をとったクラウ=デモス自身が混乱の渦の最中さなかにいた。


(な……なぜ我は闇神・・様に捧げるべき祈りをこの者にしている!? )

 

 下を向いた視線を恐る恐る上にあげ、その虹色の光を直視する。


『どうした? なぜ伏しているのだ』


 彩色の奥から声が発せられる。

 クラウ=デモスはその色と声とオーラとを、あらゆる要素を知覚し理解した。


(あぁ、そうか。単純に強いのだ。それに闇神様そのものではないが、あの光の中にある確固たる反応は紛れもなく闇の気配ーー)


 そしてフッ、と微笑み目を閉じた。


『あの〜、クラウ=デモス……どのぉ〜?』


 平伏した彼の背中からリーシュパルが、腕を中途半端に開いてワタワタした様子で声をかける。

 その声を聞いたクラウ=デモスがクワ、と目を開き、ものすごい勢いでリーシュパルに詰め寄りその鎧をひっ掴み、小さな声で詰問した。


『おい、リーシュパル! あのお方は一体どこで!?』

『フラギル殿のことですか? あの方は突然来て、仲間になってくださったんですよ。大丈夫、フラギル殿は協力者です』


 その説明を聞き、クラウ=デモスは内心で納得した。 


(そうか……最近開発されて試験運用段階に入ったという棺桶か。あれは種族すらも変えて異世界に侵入できるらしい。ただ……)


 彼の頬に涙がつつ、とつたう。


(棺桶は死越皇の管轄。つまりそうか……そうなのか……はっきり言って、我らとは仲が悪かったのに助けに来て……。申し訳ない! 申し訳ない!)

『あの〜、クラウ=デモス殿、大丈夫ですか?』

『大丈夫だ、問題ない!』


 涙を片手で拭い去り、クラウ=デモスはガッと立ち上がる。

 そして振り返り、虹色の光の本流を真正面から見つめて、手を差し伸ばす。 


『私の名前はクラウ=デモス。かつてこの地を支配した魔王にして、今はただ一つの恨みを宿す者。どうか、よろしくお願いします』

(……これほどの強さ、幹部級のお方が中に入っているやも。失礼のないようにせねば!)


 その言葉が終わると虹色の光が徐々に消え、そして完全に消えた後に残されたのは、淡く銀光を放つ球であった。


『おぉ……?』

『ふむ、先ほども言ったが、改めて名乗ろう。我が名はフラギル。ーー貴様はどんな馳走を我に味わわせる?』

『は?』

『リーシュパルは我に、勇者を討ち果たした後の無常の喜びを味わわせると約束しているのだ。貴様は、貴様は何を我に捧げるか?』

『勇者を討ち果たすことは当然ですが……』


 考え込むクラウ=デモスの頭の中で、燃える玉座の広場での惨劇がフラッシュバックする。

 一瞬光ったフラギルを見据え、彼は自然とその言葉を口にした。


『ーーでは、我が家族を完全に取り戻した時の安楽を』

『ふむ、どのような物になるか楽しみだ』 


 パアァァァッとフラギルが光りだす。

 

『そうだ、貴様に他の者も紹介してやろう。少し待っていろ』


 そう言ったきり、光る球体は沈黙してしまった。  

 クラウ=デモスはその球体を見つめながら、リーシュパルに向かって話しかける。


『なぁ、リーシュパルよ』

『なんでしょうか』

『お前は他の霊体を吸収して、その力を増しているのか?』

『はい。もっとも、自我のない霊に限りますが。……しかしその話をどこで?』


 クラウ=デモスの意識に先ほどフラギルが言った、リーシュパルは男でもあり女という言葉が浮かぶ。彼はそこからリーシュパルは霊の集合体であり、だから両方の性を保有しているのだ、と推測したのだ。


『フラギル様から聞いた』

『あぁ、なるほど』


 ぽん、と手をつくその姿を眺めるクラウ=デモスはふと、こんなことをポツリと言った。


『お前はもっと強くなりたいか?』


 リーシュパルはその言葉を聞き、魔王の意を図りかね怪訝そうにしながらも答える。


『ええ、正直なれるならいくらでも』

『そうか、なら悪霊となった我が国民を全て掃討してはくれないか』

『……いいのですか?』

『あぁ、勇者に操られたままではあまりにも。そう思ってはいたが、我は、変わり果ててしまった同胞を手にかけることはできなかったのだ』


 コクリ、とリーシュパルの首が縦に振られた。

 その時、沈黙していたフラギルの中から声が響いた。


『よう魔王様! 俺の名前はペルギムってーー』


 風が吹き荒れる、だだっ広い荒野。そのひび割れた大地には小粒の、銀色の丸い星が瞬いていた。


◇ ◇


 薄暗い一室で、1人の男が目を覚ます。

 男は寝ていたベッドから上体を起こした格好で、しばらく宙を眺めていた。 


「んー、どうした、の」


 男の横で寝ていた女がモゾモゾと体を動かし、真っ白シーツにシワを作る。 

 その声で男は、ハッと我にかえる。


「いや、魔王が……魔王の反応が消えた」

「はぁ!?」


 女は布団をガバッと跳ね飛ばしながら起き上がり、男の横に擦り寄る。


「どういうこと? 魔王はアンタが倒したんじゃないの?」

「いや確かに倒したけど、なんかそれがゴースト化して残ってたんだよ」

「いや初耳なんですけど?」

「うーん、なんせもう、そこから動かなかったから」

「ふーん」


 男は自分の頭に手を回し、そのまま布団へ倒れ込んだ。


「まぁ、奴が何かたくらもうたって、もう一回倒すだけさ」

「そうね、だってーー」


 女は男の胸になまめかしく、その白い手をわせる。


「あなたは、私たちの勇者なんだから」


 男の目が閉じられ、視界は闇に染まった。

 


 

この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

気に入ってくださいましたら、是非是非『高評価(下の星をポチッと)』『ブックマーク』『いいね』等よろしくお願いします。

また、次回の投稿は私用につき、お休みさせていただきます。

申し訳ございません。


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