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第9話 流星運送

 剣が唸り、テンプスの頭頂にまで近づく。

 しかし。


「不味い!」


 ガギィイ、という音がしたかと思いテンプスが顔を上げると、そこにはにび色に輝く像が剣を受け止めていた。

 像が振り返り、テンプスに詰め寄る。


「我は守りたいものを守れきれなかった者は見たことがなかったが、まさかこれほどまでに不味いとは!」

「だ、誰ですか!?」

「フラギル殿、なぜ急に!?」

「聞けテンプスよ!あれがしたい、これもやりたい、そう思ったのならばやれ!

 貴様は一度死んだ、それでも今ここにいる。勇者の魅了によってこの地に留まっていたとしても、それが解けた今なぜまだ貴様はここにいる? 為さねばならぬことがあるからだろう!

 おそれるな、貴様がおそれた勇者クソを討伐せんとする勇者・・が今、目の前でお前の助けを必要としているのだ。……まぁ、その感情を持ったまま消えるのは我が許さんが」

「フラギル殿!」


 リーシュパルが剣を下ろし、フラギルに詰め寄ってくる。

 フラギルは思念をリーシュパルに繋ぎ、叱りつけた。


『貴様も貴様だ、リーシュパル! なぜ一緒に戦おうという気にさせるような言葉を尽くさん! 貴様は勇者を討ちたくは無いのか!!』

『なっ、しかし強要するのは』

『テンプスは勇者に復讐したいという思いを持っているのだ。ならばそれを手助けするのが、その気にさせるのが貴様であろうが』

『……確かに』


 内心でリーシュパルに詰め寄るフラギルに、テンプスが声をかける。


「あの、貴方は?」

「我か、我はフラギル。リーシュパルの協力者、といったところだ。で、どうだテンプス? 貴様はリーシュパルについて行くのか?」

「リーシュパル殿が誰かと話しているかと思っていましたが、貴方でしたか」


 合点がいったと言うふうに、テンプスがポンと手を打った。

 そんなテンプスにおずおずとリーシュパルが近づき、頭を下げた。


「あの、テンプス殿。どうか私と一緒に戦ってくれませんか……?」 

「あぁ、良いですとも」

「やっぱりだめ、って、え? えぇ?」

「いや何、リーシュパル殿。貴方を試していたのですよ。」

「はぁ?」

「この私の心が折れた程度で貴方が諦めるのなら、この先も戦力を増やすことなどできない。そう思っていたのですが。……貴方は、少々強引だが、いい協力者をお持ちになったようだ。」


 そこでテンプスはフラギルの方をちらと見て、視線を戻し微笑ほほえんで言った。


「リーシュパル殿、どうか私を貴方の復讐の旅のお供に、加えてはもらえませんかな?」


 テンプスが白手袋を脱ぎ、透き通った手でリーシュパルに握手を求める。


「な、なんと! なんと有難い!」


 それを見たリーシュパルは目を光らせその手を握り、子犬の尻尾のように千切れんばかりに振った。


「ははは、いたい。痛いですぞリーシュパル殿。痛覚がないはずなのにイタイですぞ」

「ーーさて、貴様の望む戦力も手に入った。次は勇者へ挑むのか? それとも今回のように戦力拡大を続けるのか?

「戦力拡大は次で最後です、フラギル殿」

「ほう」


 フラギルは少し意外そうにした。


「もう少し続くものだと思っていたのだがな」

「次に向かうのはこの国よりもさらに遠く、西側の人類領を離れた旧魔族領。さらにそこを東に東に進み、大陸の最東端に存在する魔王城へ向かいます」


 リーシュパルの計画を聞いたテンプスが、メガネの奥で目を丸くする。


「なんと! このテンプス長く生きてはおりましたが、魔族領へ行こうなどと言う者はあの勇者クソ以外では初めて見ますぞ」

「危険な場所だったのか」

「いえ、おそらくは危険ではないでしょうな。魔族領としてあった当時、細々とは交流があったはずですし。ただ……」

「ただ?」

「どちらにもそれぞれを排斥する運動があったそうで。特に人間側の方がその勢いはあったそうですぞ。なんせそういう宗教は大昔からあったものですから」

「うぬ……」

「フラギル殿。話を続けても?」

「あぁすまぬ、続けよ」


 リーシュパルが兜の前で拳を握り、コホンと咳払いして再び話し始めた。

 

「魔王は勇者討伐において戦力の要になると言っても過言ではありません。娘を裏切らせ、国民を殺され。勇者に蹂躙された恨みでほぼ間違いなく魔王の霊体はあるでしょうし、昇天していなければ魔族のゴーストも、私の軍団をより強力なものにしてくれるでしょう」

『そうか。で、リーシュパルよ。貴様は魔族領が遠いと言っていたがどれほどだ』

『そうですね……』


 リーシュパルはそう言って、さらさらと地面に地図を描きだした。

 簡略化された地図には、今フラギル達のいる位置と目的地が描かれていた。


「こちらの地図の真ん中より左側の点が私たちのいる地点で、もう片方の右端にある点が目的地です。大丈夫です、目的地までの道のりは私の有りはしない脳にて、しっかりと記憶しておりますから」

「リーシュパル殿……どうやってこれを」

「おそらく私を生み出したあのお方か、それこそアノン神が授けてくださったのでしょう。“勇者を討て”、と」

「アノン神信仰ですか。確か魔族排斥派の最たる……」

「ーー教義が、その時代を生きるものによって捻じ曲げられるのは、当然のことでは?」

「う、む。しかし遠いですなぁ魔王城。歩いて五カ月、いや七ヶ月はかかるのでは。リーシュパル殿はよろしいので? 早く勇者を討ちたい気持ちがあるのではないのですか? わたくしにはありますとも、ええ」

いて討伐に失敗すればいけないのです。勇者は必ず滅す。これは私の蘇った意義なれば」


 そう言って強く握りしめた拳を、リーシュパルはしかしほどいて兜を覆うように押し当てた。


「しかしそれほど時間がかかるのもまた事実……。フラギル殿の移動方法でもそこまでの速度は……」


 兜から漏れ出る眼光を弱まらせたリーシュパルを見たフラギルは、一瞬の間を置いた後、ギョルンと球形態に戻りながら言った。


「ならば飛ぶぞ」

「……え?」

「はい?」


 リーシュパルの目がキュピーンと光り、テンプスの顔からメガネが片側ずり落ちていった。

 しかしそんな二人を間髪入れず、問答無用で吸い込んだ球体フラギルの下部が、キュワァァァという甲高い音とともにまばゆく光だす。

 するとフワリ、と白光の奔流を吹き出しながら宙に浮いた。


『フラギル殿ー!?』

『うわー! フラギル殿、待って下さい! 待って、止まって!』

『飛ぶかフラギル!』

『やるんじゃフラギル!』

『全てはフラギル様、あなたの御心のままに』


 フラギルの内側ではお祭り騒ぎだ。

 そして、リーシュパルの静止虚しく、フラギルは爆煙を噴き上げ尾を引きながら、爆煙と共に地面から飛び立った。

 

『ウワーぁぁァァァ』


 この日、空に一筋の流れ星が見えたそうな。

来週の投稿は、私用のためお休みさせていただきます。

皆様申し訳ございません。

気に入っていただけましたら高評価など、よろしくお願いいたします。

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