第7話 ゆうしゃの みりょうは せかいいち
フラギルの内部で、リーシュパルが座りこみながら文句を言う。
『……私を収納して移動するなら、先に言ってください』
『まぁ、そう言うな。貴様、多くの軍勢を率いてチマチマと進軍していたのであろ? ならば我の中に入って、纏めて行けば早いではないか』
『それはまぁ、そうですけど』
リーシュパルはそう言って不貞腐れたように、何もない地面を眺めた。
『それで、行き先は?』
『あぁ、ティンギル平原を抜けて森を抜けた先のオルハラ王国に向かいます。進路はこの進行方向でよろしいかと。道なりに進んでいけば王城が見えてくるはずです』
騎士の案内通りにフラギルがコロコロと舗装されていない地面を転がる。
フラギルの内側でしばし、沈黙が生まれた。
木漏れ日がフラギルをキラキラと照らすようになった時、座り込んでいても小山のように大きなリーシュパルの背を後ろからゼルがゴンゴンと叩いた。
『のうのう、リーシュパルよ』
『なんでしょうか?』
ゼルは、今まで自分の頭の中で思考していたことを口にする。
『いやの? ワシは魅了で国が滅んだという話は聞いたことはあるんじゃよ。じゃがの、魅了に対しての対策を怠りすぎではないのかの? 対抗できる薬とか魔法とかなかったのかの? ワシ、正直少し、情けなさすぎると思っとるんじゃが』
『……確かにゼル殿のご指摘はもっともです。ですが、各国の君主も皆、勇者に会う前には何かしらの対策をしていたんじゃないでしょうか。特に、魔族の領域からだいぶ離れたところにある国家群は魔界侵攻同盟には入っておらず、勇者に初見殺しで魅了されることもなかったですし。ですが……』
ゼルには、リーシュパルが話すこの後の展開が容易に理解できた。
『魅了されて、征服されたか』
『えぇ、極度に人嫌いの王が魅了された、などという話は枚挙にいとまがなく、レジストの魔法をかけたはずの使者が魅了されて帰ってきて、使者の帰りを労う王を刺し殺したという話などが本当に多いのです。……面白い話ですと、ある国の王は魅了に対抗できぬならむしろ、などと逆に精力剤を飲んで勇者に会い、案の定魅了されて襲いかかったところを周りにいた側室達に八つ裂きにされ、そのまま面会の窓から投げ捨てられたという話も』
『それはただの阿呆じゃろ』
『ーーともかく、このように勇者の魅了の力は強大なため、各国は勇者にあってはいけないという考えに至り、徹底して閉じこもる……、つまり鎖国の決断を下したのです。これから向かう国、オルハラ王国も固くその城門を閉ざした国の一つです』
リーシュパルの話が終わった後、ゼルは手で頭をおさえ横にふるふると振った。
『ううむ、魅了の規模が違っておったわ。 勇者の力が単純に強い、というだけではないのがのぉ……』
そしてふと、ゼルは頭に浮かんだ疑問を口にした。
『そう言えば、リーシュパル自身は魅了されたのじゃろうか?』
それを聞いた瞬間、リーシュパルの鎧の隙間から赤黒く燃え燻るオーラのようなものを出てきた。
『ーーあ、すまぬ。今のお主にとって、この言葉は容認できる内容ではなかったの』
それを見たゼルは咄嗟にリーシュパルに謝る。
それを見たリーシュパルもオーラを引っ込めて、先程普通に話していた時のような様子で、しかしどこか語気を強くして言った。
『いいえ、そのようなことは断じて。そもそもこの恨みの力が無ければ、死して霊魂となった後に勇者に復讐しようとは思えないのです』
リーシュパルの言葉に驚きを覚えたフラギルが思わず、といったふうに声を上げる。
『ぬ、死んだ後でもまだ勇者に魅了されたままなのか。 ではもしや貴様は、他の者らは……』
『えぇ、私にはあるのです。しかしこれから先に会う霊は、勇者へ愛を捧げながら私たちに襲いかかってくるでしょう。勇者への愛ゆえに地上に縛られてしまった彼らにとって、我らの恨みは異質なものですから。私がこうして動けているのは恐らく、神がそのように世界の理が乱れてしまったのを、見かねたからなのでしょうね』
フラギルは勇者の所業の悍ましさに、言葉がしばらく出なかった。
感情に味を感じるフラギルにとって、感情を固定化するという行いは暴挙に等しいのだ。
フラギルの中で勇者の評価が大暴落していく。
『……それでその勇者に魅了された霊はどうする』
『彼らを鎮圧すれば私の力で勇者の魅了が解けるので、その後に霊に聞いて天に昇るか私たちと一緒に戦うか決めてもらうのです。今までこのようにして戦力を拡大してきました』
『なるほど、では貴様はその者らの感情を取り戻していたのだな』
そんな勇者の評価をは違い、感情を取り戻すための活動をしていたというリーシュパルには、好感度のようなものがフラギルの中でぐんぐんと上がっていった。
『えぇ? まぁそうなる……のでしょうか? 結局のところ魅了されて夢うつつの状態の霊を復讐一色に染め上げているでですから、私は』
『だがそれはあくまで、魅了から解放された後のその者の選択であろう? 自分の感情を弄ばれたなどと知れば怒るのは当然だとは思うぞ』
『……フラギル殿はやけに、人間の感情に詳しいのですね。人間ではないはずですのに』
リーシュパルの疑問に、ゼルがフラギルを指差しながら答える。
『人間観察が趣味なんじゃよ、こやつ』
『さっき滅んだ国も周っている、だなんてリーシュパルが言っていたけどそういう訳だったのか。フラギルが話していたから聞きそびれてたんだよな』
フラギルの後ろでは、ペルギムがそう言ってフンフンと頷いていた。
『えぇ、先程言った通りですペルギム殿。っと、フラギル殿。そろそろ目的地です。私が先行しますので、失礼。……噂通りであれば、白く輝く王城が見えるはずなのですが』
リーシュパルはそう言って、転がるフラギルから射出された鎧に憑依し、走って行ってしまった。
リーシュパルが鎧に憑依する時、霊体ではあるが筋肉質の、だがしなやかな裸体が木々に所々(ところどころ)隠されながらも4人の目に映る。
『デカい胸部装甲だなー……』
ペルギムはリーシュパルの胸にある巨大な双丘を。
『……見たか?』
『えぇ……?』
『あやつの股に何か……生えておらんかったか?』
『……生えておりましたね、ゼル』
『ドユコト?』
『サァ?』
『女……と思っておったのじゃがのう』
『男……なのでしょうか?』
ゼルとティナは目線の低さから、リーシュパルの股に生えたナニカを見てしまった。
フラギルは3人の言葉を受けて、ポツリと呟く。
『ふむ、両性具有というやつか』
『『『……Oh』』』
3人はあまりのことに、消え入るような驚きの声を漏らした。
しかしいち早く復活したゼルが、フラギルに向かって指摘する。
『いや待てフラギル、お主の推測はおかしいぞ!』
『ん? どう言う事だ,ゼルよ』
『死霊になったとてその姿は、生前の姿のままのはずなのじゃよ』
『ううむ』
考え込むフラギル。
そこへガチャガチャと鎧を揺らしながらリーシュパルが帰ってきた。
「お待たせしましたフラギル殿、こちらです」
フラギルはリーシュパルに連れられるまま、その後を転がった。
しばらく転がると、急に視界が開けた。
「着きました。 ここからならオルハラ王国の主城、コランデュルフ城が見えるはずなのですが……」
リーシュパルの話では陽光の下に、白く美しく輝く王城がフラギルの視界に映るはずであった。
『……我には人の気配が感じ取れないのだが』
「一足、遅かったようです……」
しかし、フラギルらの視界に映る光景は、城の尖塔が崩れ落ち、堅牢さを示す城壁はどこにもなく、およそ城とは呼べない残骸が在るのみであった。
『……人の気配どころか、見るからに廃墟じゃな』
『一足どころじゃなくね?』
『ペン、それにゼル、それを言ってはいけないでしょう』
フラギル達はとりあえず、城に向かって再び転がりだした。
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